2009年8月11日火曜日

mainichi shasetsu 20090811

社説:衆院選・教育 理念とビジョンがいる

 教育は国家百年の大計という。

 土台は子供や若者が教育を受ける機会均等の保障にあるが、それが揺らいでいる。失業や所得格差の生活不安が影を落としているためだ。進学断念や中退だけでなく、学力テストの平均正答率の差異にも影響がみられるというデータもある。

 各党の教育政策は、子育てとともに教育費負担の家計支援が大きなアピールポイントだ。例えば、自民党は給付型奨学金創設や3〜5歳児教育費の段階的無償化を打ち出し、民主党は公立高校の実質無償化や私立高生への大幅助成を宣言している。

 教育費負担の軽減は、それ自体少子化対策上も有用な政策であり、期待する家庭は多いだろう。だが、政治はこれを機に、今後の教育政策が目指す基本方向や理念、そのために必要な制度設計へと掘り下げて論じ進めていくべきだろう。

 明治維新と敗戦直後に続く「第3の教育改革」が唱えられ始めたのは1970年代だ。制度見直しはなかなか進まず、80年代には首相直属の臨時教育審議会が登場、個性の重視、国際化・情報化への対応、生涯学習社会化など基本方向を示した。

 しかし、その後急速に進んだ少子高齢化や経済環境の変化、学校5日制導入、いわゆる「ゆとり」教育と学力低下批判の高まり、学習指導要領の「増 量」改定など、教育政策はこの10年迷走気味で、腰の定まらない印象がある。大学進学率は高まるばかりで5割を突破したが、目標を見失う学生の問題も深刻 だ。

 一方、国際比較すると、日本は教育にあまり金をかけない国と映る。公財政支出は国内総生産(GDP)比3%台で、経済協力開発機構(OECD)諸国の平均5%に及ばない。背景には、教育は親の負担でという伝統的な考え方がある。

 財政の壁も厚い。

 改正教育基本法に基づき昨年策定された国の教育振興基本計画で、文部科学省は、支出をOECD平均に引き上げ、教職員定数2万5000人増など数 値目標を盛り込もうとした。他の先進国に負けぬにはこれだけ予算や人がいるという論法だが、支出抑制の財務省は「成果の見通しがない」と認めなかった経緯 がある。

 教育費支援拡充を教育のあり方全般へ論議を広げる機運としたい。教育は社会全体が担い、子供それぞれの可能性を伸ばすとともに、安定し持続する将来の社会へ必要な公的投資。こう発想を転換できないか。

 総選挙は「日本の希望」を語らう時でもある。子供の顔あれこれに思いを重ねながら描く教育のビジョンこそ、それにふさわしい。




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