2009年8月28日金曜日

asahi shohyo 書評

もっと本を!!再読ガイド

「もっと本を!!再読ガイド」は、朝日新聞の土曜朝刊に挟み込まれてくる別刷り紙面「be」に掲載しています。この記事の下部から、書籍の購入ページへ飛ぶこともできます。

だれでも詩人になれる本 [著]やなせたかし

[掲載]2009年8月22日朝刊be

■詩神のささやきを聴く

  世界には「○○の詩人」と呼ばれる人が各地にいる。世界遺産に登録されたスペインのサグラダ・ファミリア教会の設計者ガウディは「建築の詩人」、画家ミロ は「絵画の詩人」、チェロのカザルスは「音楽の詩人」と呼ばれた。米国・ヨセミテ渓谷の風景で知られる写真家アンセル・アダムズの異名は「写真の詩人」で ある。

 だれでも一度は詩を書いてみたいと思ったことがあるだろう。では、どうすれば詩人になれるのか。

 本書はアンパンマンを生んだ漫画家やなせたかしさんが77年に講談社から出した『詩とメルヘンの世界』を改訂し、やなせさんの90歳の誕生日にあわせて復刊した。「大切なのは詩の勉強ではなく激情だ。面白く愉快な生き方をすることが先決だ」と説く。

 詩の入門書は数あるが、これほどスラスラ読める本は珍しい。恋するとき人がみな詩人になるのは「情熱が心の火を燃やすために、詩神のささやきを聴くことができる」からだと、それ自体が詩的な珠玉の文句がちりばめられる。

 だれにも詩心はある。形式ではなく心に響く詩を。

 さあ、今日からあなたも詩人だ!(伊藤千尋)

■もっとはまりたい人へ 書店員のおすすめ

 ジュンク堂池袋本店(文芸書担当) 山本千秋さん

〈1〉やさしいライオン [著]やなせたかし

〈2〉「歌」の精神史 [著]山折哲雄

〈3〉幸福 KOFUKU [著]井川博年

 丸善丸の内本店(ブックアドバイザー) 小松原敏博さん

〈4〉現代詩作マニュアル [著]野村喜和夫

〈5〉名詩の絵本 [編]川口晴美

 「『だれでも詩人になれる本』の訴えるところは『叙情性の復権』ではないでしょうか」と、山本さんは指摘する。「この初版が出た当時は、今よりもっと叙情的な詩に親しんでいた」とも。それでは、詩と叙情性について考えてみると——。

 〈1〉はやなせさんがアンパンマン以前に描いた絵本だ。犬に育てられたライオンの物語で、「どこか懐かしい日本人独特の感性を感じさせてくれる」(山本さん)作品である。

 その「日本人に独特な叙情性」とは何か。宗教学者でもある評論家による〈2〉が、それを歴史的に解読する。美空ひばりの悲哀から尾崎豊の怒りへと移った日本の歌謡曲の流れを語り、万葉以来の叙情が失われてきた過程を説き明かす。

 やなせさんは「勉強はいらない」と言う詩作だが、「それでも勉強したい」人に小松原さんが薦めるのが〈4〉だ。ランボーも最初 はフランスの詩の歴史を勉強したと書く。日本の戦後詩史の流れを叙述し、キーワードの解説もある。「詩の出現とは、余白の出現である」と言われると、何と なく納得してしまう。

 いい詩をつくるには、いい詩を読むことも大事だろう。〈5〉は持ち歩きできるポケット判の名詩集。童画や写真の上に詩句を配し、見ても楽しい。

 難解な詩も多い中、「とるに足りない日常を淡々と描き、じわっと感動がわき上がる」(山本さん)詩集が〈3〉だ。06年の萩原 朔太郎賞候補作。25編を収録。教え子が詩人になったことを「生涯の誇り」とする中学校の恩師が、自身も還暦を越えて詩人を目指す。その恩師が90歳で、 先立たれた妻の靴を夢見て作った一編には泣かされる。

表紙画像

あなたも詩人 だれでも詩人になれる本

著者:やなせ たかし

出版社:かまくら春秋社   価格:¥ 1,260

表紙画像

やさしいライオン (フレーベルのえほん 2)

著者:やなせ たかし

出版社:フレーベル館   価格:¥ 924

表紙画像

「歌」の精神史 (中公叢書)

著者:山折 哲雄

出版社:中央公論新社   価格:¥ 1,575

表紙画像

幸福

著者:井川 博年

出版社:思潮社   価格:¥ 2,100

表紙画像

名詩の絵本

出版社:ナツメ社   価格:¥ 1,365

0 件のコメント: