社説:西日本豪雨被害 「町で何が?」徹底検証を
台風9号による大雨は兵庫、岡山、徳島3県で多くの犠牲をもたらした。20人以上の死者・行方不明者をだした兵庫県佐用町の家々は土砂に埋もれ、 先月、やはり豪雨被害に襲われた山口県の特別養護老人ホームの惨状と二重写しになる。人口約2万人の中山間地域の町に、なぜこれほどの被害が集中したの か。疑問がぬぐいきれない。
今回の水害は猛烈な豪雨で、河川の水位が一気に上昇したことが特徴だ。町内を流れる千種川や支流の佐用川は9日午後7時ごろから急激に雨量が増 え、午後8時からの時間雨量は約80ミリに達した。降り始めからの累計でも300ミリを突破し、例年の梅雨時の1月分以上に相当する雨が降り注いだとい う。
このため午後9時ごろ、水位は危険水位をはるかに超え堤防が崩れ、濁流が流域の家々に押し寄せた。水位上昇の速度は警報システムの想定以上で、町 が避難勧告を出した午後9時20分には既に道路は冠水し、避難途中で流されたとみられる犠牲者もあった。もっと早く、危険を察知して避難させる手だてはな かったか。悔やまれてならない。
台風の接近などで危険が予想される場合、早め早めの避難が鉄則である。一方で、夜間に冠水した道路を逃げることには大きな危険が伴う。「無理して 避難するより自宅の2階に逃げる方がいい場合がある」と指摘する専門家もいる。避難勧告のタイミングや避難指示のあり方に問題はなかったか。徹底して検証 し、教訓をくみ取るべきだ。
昨年夏、愛知県岡崎市でも深夜に1時間140ミリを超す豪雨があり、2人が亡くなった。この時も深夜の情報伝達の遅れが指摘され、同市は避難情報を携帯メールで通知するなどのシステムを導入した。こうした新しいツールの利用も注目したい。
温暖化の影響でゲリラ豪雨が増える可能性が指摘されている。住民の生命を守るには情報伝達や避難誘導に従来以上の迅速さが求められる。先手先手の豪雨予測が不可欠だ。
国土交通省は局地的な大雨や集中豪雨を監視できる気象レーダーの整備を進め、気象庁も積乱雲の発生をとらえるレーダーを増強している。こうしたハード整備に加え、ハザードマップ(災害予測地図)を利用した住民参加の防災訓練を進めることも必要だろう。
今年は伊勢湾台風から50年を迎える。5000人以上の犠牲者をだした反省から治水対策が進み、その後死者1000人を超す台風被害は起きていない。しかし、数十人規模の被害が姿を消さないのはどうしたことか。人的被害をなくすため、あらゆる技術と知恵を動員すべきだ。
毎日新聞 2009年8月12日 0時19分(最終更新 8月12日 0時26分)
0 件のコメント:
コメントを投稿