皇族—天皇家の近現代史 [著]小田部雄次
[掲載]週刊朝日2009年8月14日号
- [評者]青木るえか
■皇族の皆さん、もっとナマグサくていい
皇族の書いた本が大好きだ。秩父宮勢津子妃、高松宮喜久子妃、高円宮久子妃、梨本宮伊都子妃などの書いた本の、まあ面白かったこと。極めつきは皇太子が書 いた『テムズとともに』。皇族もちゃんといろいろ考えたり失敗したりする人間なのね、というごくあたりまえのことがこういう本でよくわかる。ことに『テム ズ』で皇太子がオックスフォード留学中、寮の有志の映画会で「ベニスに死す」を見て「興奮して眠れなかった」という話。「ベニスに死す」で興奮というのが 何かこちらもドキドキさせられる話で、私はただちに皇太子のファンとなったのだった。高円宮久子妃の本も、語り下ろしだが(他の宮様もほとんどそうだろう が)日常生活の様々が「ありがち」でありつつ「やっぱり雲の上」で、そのへんがとても興味深い。
『皇族』というこの分厚い新書。中公新書なので古代からの皇族を説き起こした大まじめなものかと思ったらもう少し下世話な「皇族ご紹介本」だった。もちろんそちらのほうが面白いし、歓迎だ。
戦時中から戦後にかけて、皇籍離脱した皇族の皆さんの右往左往ぶりなどが綴られている。いろいろ苦労なさってるのね、と思って もよく読めば、財産税いっぱい取られたとかいう話で、その取られるモノが庶民にはもともとないんだよ。平等といいながらぜったい不平等である。不平等反 対。
昭和天皇の兄弟や、息子、孫の世代の皇族となると天皇に近くなるせいか、ナマグサイ話は出てこない。上記の妃殿下本などでも 「ちょっといい話」に止まる。しかし何かあるだろう、ということは臣籍降下(臣籍という言い方もすごいよ)した元皇族の皆さんがたのすったもんだを見れ ば、いろいろあるのは想像に難くない。菊のカーテンは分厚くなってるような感じの反面、カーテンからはみ出すような皇族(雅子さんとか高円宮の女王様と か)には激しくキビシイという現在は、なんかヘンだと思う。もっと皇族の皆さんたち、ナマグサくても私はいい。
- 皇族—天皇家の近現代史 (中公新書)
著者:小田部 雄次
出版社:中央公論新社 価格:¥ 1,029
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