2009年8月11日火曜日

mainichi shasetsu 20090811

社説:視点=衆院選・生活者重視 そんな内向きでいいの

 「みんなが日本の人口減少は大問題だと思っている」「変化が望めない国は買えない」

 世界の金融機関の経営者らが京都市に集まった今年6月の国際金融会議年次総会。ある大手証券の首脳は、海外参加者の厳しい言葉を多く耳にした。投 資のプロの見方は一般の一歩先を行く。「国としての魅力が薄れ、存在が軽くなっていくのが世界の共通認識になったら大変だ」と思ったという。

 各党の政権公約やリーダーの主張に、そうした視点はあるだろうか。「日本を守る、責任力」(自民)「国民の生活が第一」(民主)「生活を守り抜 く」(公明)「国民が主人公」(共産)「生活再建」(社民)。違いがあるようで、どこも「国民の生活を守る」という普通の政党として当たり前を言っている にすぎない。実にもどかしい。

 そもそも各党が重視し、本位に考える「生活者」とは誰なのだろう。生活者を脅かす者、苦しめる者は? 「生産者重視から生活者重視へ」と訴えるな ら、農家や町工場の経営者らは敵なのか。英語に「生活者」にあたる言葉はない。あえていうならpeople。国民だ。だから「生活者の目線に立ち」といっ たはやりのセリフも特別な意味はなく、優しく聞こえるどころか当たり前すぎて空々しい。

 当たり前ができていないから、やっとその気になったのだろうか。いや、日本の政治はそこまでひどくないはずだ。

 前回衆院選から4年。穀物や資源の価格高騰でロシア、ブラジルなどの地位は向上した。米国発の金融危機が世界中を混乱させ、欧州の拡大にブレーキ がかかり、貧困に苦しむ途上国は一層の窮地に立つ。オバマ大統領が誕生した米国で、あのGMがついに破綻(はたん)した。まもなく中国は経済規模で日本を 抜く。

 ごく簡単に振り返っても「世界」は大きく変わり、変わろうとしている。そうか21世紀が動き出したのだな、と実感する。そんな中で内向きの「国民 生活死守」に傾斜するだけなら、有権者は息苦しいし政治家もつまらない。せめて、小泉政権が進めた構造改革の評価くらいはやらないと、乗り越えるにしても ご破算にするにしても、先に進めない。

 内閣府が8日発表した「国民生活に関する世論調査」によると、現在の生活にどの程度満足しているかの問いに61%が「満足」と答えた。有権者の関 心が今の生活にあるのは確かだが、意外に満足度も高い。足るを知った先に、次の世代のことや世界とのかかわりに思いをはせている人は多い。(論説委員・中 村秀明)

毎日新聞 2009年8月11日 0時07分





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