2009年8月29日土曜日

mainichi shasetsu 20090829

社説:視点=衆院選 地方分権 人材なくして改革なし

 地方分権は今回の総選挙でも大きな争点になっている。随所に格差が目立っている。中でも、地域間格差は一向に改善されない。一つの処方せんが地方 分権の推進だ。自民党は道州制を17年までに導入することをうたい、民主党は都道府県を残すものの、基礎自治体である市町村への大幅な権限と財源の移譲を マニフェストに盛り込んでいる。だが、いずれも欠けているのが人材の育成、確保だ。

 日本の近代化は、人材を中央に集中させることによって達成された。その結果、大都市部では過密が進む一方で、地方では過疎化が激しい。こうした傾 向に歯止めを掛けようと地方分権が叫ばれて久しい。税源や権限の分権が進めば、自治体は自らの創意工夫が必要となり、支える人材が何より求められる。

 コウノトリを復活させた兵庫県豊岡市では副市長候補を広く募集したところ、47都道府県に加え米国からも計1371人の応募があった。最終審査に 残った7人のうちから、米国のIT関連会社の社長を務めたこともある真野毅氏(53)が選ばれた。市議会の議決を経て就任する。

 中貝(なかがい)宗治市長は、コウノトリをはじめ、まち全体に日本情緒が色濃く残る「奇跡の温泉街」と呼ばれる城崎温泉などを例に挙げ、副市長採 用の基準を力説した。「人口が少なくとも世界から尊敬、尊重される『小さな世界都市』の実現のために夢を共有し、一緒に汗を流せる人」

 国の定めた法令や通達による義務付け、枠付けが削減されれば、市町村独自の条例作りが要求される。法務の専門家が欠かせない。情報化に対応するには、ITの専門家が、産業振興を図るには民間経済に精通した人材が求められる。

 東京都では副知事に民間人を起用している。大阪府では4月の人事異動で商工労働部長ら17人を民間から登用している。民間から採用するメリットと しては、コスト主義の徹底、時流への感度の向上、単年度主義からの脱皮など官僚主義の打破が挙げられる。組織活性化のため、民間の成功体験者を起爆剤とし て採用するケースもある。

 分権が進めば、住民参画の機会が増える。慣例を踏襲するだけでは、住民の期待に応えられない。幹部クラスに民間人を据えることで、組織は活性化するはずだ。同時に、旧来の組織との確執も想定されよう。そのリスクを最小限に抑えるのも首長の手腕の一つだろう。

 中貝市長は「変革期には広く人材を集めるべきだ」という。豊岡市を良き前例に、人材難の自治体も奮い立つべきだ。

 (論説委員 松田喬和)

毎日新聞 2009年8月29日 0時13分



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