2009年8月31日月曜日

kinokuniya shohyo 書評

2009年08月30日

『サルコジ マーケティングで政治を変えた大統領』国末憲人(新潮選書)

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「何でこんな男がフランス大統領になれたの?」

 アメリカ大統領のオバマの名前を知らない人は殆どいないだろうが、現フランス大統領のニコラ・サルコジの名前を知っている日本人はどの程度いるだろう か。私は一度サルコジと「接近遭遇」したことがある。パリ16区のローリストン通りに古くからあるレストランで食事をしていたら、一つ置いたテーブルにサ ルコジがいるのに気づいた。彼の同席者は男性が一人。15年程前の話なので、思えばサルコジはシラクににらまれて不遇の時代をすごしていた時だった。しか し、彼が大統領になるとは、その時には微塵も想像できなかった。

 国末憲人の『サルコジ』の帯を見て驚いた。「なんでこんな男が、フランス大統領になれたの?」その上には「移民出身の小男。離婚2回で現妻は スーパーモデル。酒が飲めず文化にも興味なし・・・・・・」とある。フランスに住む多くの日本人が、思っていてもなかなか口に出来ないことが、印刷されて いる。これは、買って読むしかない。

 大統領選挙に勝利した直後、サルコジは友人の実業家の所有する豪華ヨットに乗り、地中海で遊んでいる事を報道され、世の顰蹙をかっている。それに 懲りもせず、「友人」たちの援助で豪勢に遊びまわっていたが、それを筆者は「つまり、成り金なのである。」と切り捨て、数々の暴言や奇行に関しても「地で もわがままだが、演じてもわがままなのである。」と容赦ない。

 小気味が良い所が多いのだが、国末は決して主観のみで判断しているのではない。朝日新聞のパリ支局員、支局長として、他の日本人ジャーナリストが 関心を持たない部分まで、徹底的に取材している。サルコジの番記者(フランス人)に混じり、ただ一人の日本人記者として大統領の外国訪問に随行してもい る。筆者にとってサルコジは気になる存在であり、それを通してフランスを、そして世界の動きを敏感に理解しようという姿勢が見える。

 サルコジは二度離婚しているが、特に二番目の妻セシリアとのエピソードは興味深い。セシリアは元々人気テレビ司会者のジャック・マルタンの妻だっ たが、結婚式の時ヌイイーの市長だったサルコジと出会い、紆余曲折の末サルコジと再婚している。夫をコントロールしているような、かつてのビル・クリント ンに対するヒラリーを思い出させる行動に出たりもするが、セシリアは「もう一人のサルコジ」のようだと、筆者は分析する。

 そのセシリアと現職大統領として離婚し、スーパーモデルで歌手でもあるカーラ・ブルーニと再婚する。強烈なスキャンダルなのだが、サルコジは私生 活を権力把握のために「活用」する。離婚を発表するのも、フランスで大規模なストが行われている日だった。一大ニュースのせいで、ストが霞んでしまった。 これを狙ったのだとしたら、恐ろしくなる。カーラも再婚だが、三面記事的エピソードには事欠かない女性である。

 国末はサルコジがここまで登りつめた要因は、ビジネスの世界で行われている「ストーリーテリング」のおかげだと言う。今までの大統領—ド・ゴー ル、ミッテラン、シラクのような「国父的存在」とは一線を画した新しい指導者である。サルコジに厳しい目を向けながらも「サルコジのような人物こそ、この 現代社会に合致する指導者なのかもしれない。」と冷静に判断している。日本でも衆議院選挙が行われた。サルコジの姿を捉えることは、例え反面教師的意味で あったとしても、日本の行く末を考える良い機会であるに違いない。


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