2009年8月9日日曜日

mainichi shasetsu 20090809

社説:アイヌ懇報告書 共生の空間を作ろう

 今後の指針たり得る結論である。アイヌ民族に関する政策について政府の有識者懇談会が報告書をまとめた。アイヌが北海道の先住民族との認識に立ち、国民の理解を深めるための教育や生活支援も含め、総合的な取り組みを求めた。

 言語、音楽などに偏りがちだった文化復興を民族固有の生活様式の総体という視点でとらえ、北海道以外に住むアイヌも含めた生活支援の検討を求めた 方向は理解できる。報告書の主張通り、政策の実施には法律による裏付けが必要だ。民族共生の具体化に向け、着実に検討を進めなければならない。

 アイヌ民族に関しては昨年6月、国会がアイヌを先住民族と認めるよう求める決議を採択、これを受けて政府は「日本列島北部周辺、とりわけ北海道の 先住民族」との見解を初めて表明した。国連の権利宣言は先住民について、さまざまな権利を認めている。アイヌ民族に関する新たな政策をめぐり、懇談会は昨 夏から検討を続けてきた。

 注目すべきは今後の政策について、先住民族との認識に立脚した展開を促した点だ。

 報告書では日本が近代化する過程でアイヌ文化が深刻な打撃を受け、その復興に取り組むことは国の責任と指摘した。歴史的経緯への認識を国民が幅広く共有する意味で、学習指導要領の改定による学校教育の充実を打ち出した点は重要だ。

 また、文化継承に必要な植物や魚の採取の場となる国公有地や河川などの利用について、行政も関与した条件整備を求めた。「先住権」の中身を具体化するうえで、現実的な方策だろう。

 一方で、報告書は道外に住むアイヌの実態調査を進め、全国規模で支援策を講じるよう求めた。

 アイヌの人の所得や大学進学率は現在もなお厳しい環境にあり、特に道外に住む人々への政策は放置されている。生活支援にはアイヌの人を個々に認定 する必要があるが、慎重な手続きが求められることは言うまでもない。アイヌ団体などの協力も得たうえで、報告書が言う「透明性、客観性」のある認定制度を 作りあげなければならない。

 アイヌ民族との共生の空間としての公園整備を提言したことも興味深い。アイヌ文化を体験し、交流を深める場であると同時に、過去に発掘されたアイヌ人骨の慰霊施設も置く構想だ。せっかくなら自然豊かな、広々とした共存の場を実現してほしい。

 アイヌ政策に関してはさきの国会決議にみられるように、与野党合意に基づく推進が望ましい。議員立法で新法の内容を検討することも、ひとつの選択肢である。




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