社説:衆院選 農業政策、抜本改革の視点示せ
衆院選では、農業政策も大きな争点の一つだ。07年参院選で民主党の掲げた「農業者戸別所得補償」政策が同党の勝因になったからだが、世界的な食料需給の逼迫(ひっぱく)や日本の食料自給率の低迷など「農と食」をめぐる危機感の高まりも背景にあろう。
民主党の所得補償政策は、幅広い農畜産物について、販売価格が生産コストを下回った場合、その差額を農家に補てんするものだ。「バラマキ」との批 判が強いが、米欧の農業政策は90年代以降、価格支持(下支え)型から所得補償型にシフトしている。ウルグアイ・ラウンド(先の多角的貿易交渉)などで貿 易の自由化が進み、コストの低い途上国との競争が激化して価格支持政策が効かなくなってきたからだ。
これに対し、日本の農政はまだ価格支持型が基本だ。その典型はコメで、国内での生産調整(減反)と輸入米への高関税(778%)が米価を下支えし ている。来年中の合意を目指すドーハ・ラウンドで日本は大幅な関税引き下げを迫られており、その意味では所得補償の導入は理にかなっている。
ただ、日本農業は構造的な問題を抱えている。日本の農業就業人口は約290万人だが、ほぼ半数が70歳以上だ。新規就農者は年間7万人程度しかお らず、農家数の減少が今後、加速していくことは必至だ。引退する高齢者の農地を意欲ある若手農家に集め、規模拡大によるコスト削減を進めることが急務に なっている。経営規模や担い手としての将来性の差を無視し、一律に所得を補償する民主党の政策は不効率な農業構造を温存しかねず、結局はバラマキ批判を免 れない。
同じ批判は自民党にも当てはまる。「国内農林業の所得増大」をうたう同党のマニフェストには「農地をフル活用」「国民の求める農産物を安定供給」 といった総花的なスローガンが並ぶが、具体策はほとんど示されていない。「コメの生産調整は不公平感の改善を図りつつ(中略)措置を充実する」など、従来 の政策の継続と拡充を約束しているだけだ。地産地消や農産物直売、農家と商工業者との連携など新しい視点もあるが「強力に進める」というかけ声だけでは評 価できない。
民主党は国内農業に厳しい試練をもたらす日米自由貿易協定(FTA)締結をマニフェストにうたい、自民党や農業団体の批判を受けて修正に追い込ま れた。お粗末なエピソードだが、そんな揚げ足の取り合いより、日本農業の将来を見据えた抜本改革を打ち出すことこそ政権を担おうとする政党の責任であるは ずだ。
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