2009年8月4日火曜日

asahi shohyo 書評

江戸の性の不祥事 [著]永井義男

[掲載]週刊朝日2009年8月7日増大号

  • [評者]谷本束

■一茶は50代で「夜五交」

 色恋のからんだゴシップと聞くとどうも、野次馬根性が止められないもの。落語にも艶話はいっぱいあるわけで、江戸時代もやっぱりこの手の話に人は目がなかったとみえる。この本、江戸のセックススキャンダルを集めたものなのだが、まあその中味の濃ゆいこと。

 武士も庶民も不倫は日常茶飯事。武家の妻や娘が出合茶屋で売春、今でいうデリヘルをやり、僧侶も妾を囲って女郎買い。男色も普 通で、歌舞伎役者が弟弟子を仲間と一緒に輪姦しただの、大店の番頭さんが丁稚どんを手ごめにしただの、ええい、どいつもこいつも。鰻丼にフォアグラと白子 をのっけて食べるみたいな胃もたれ感。

 性に大らかな時代だったということだろうが、根本的な感覚のズレみたいなものがあちこちにある。

 男に言い寄った研ぎ屋の息子の話がまさにそう。「お前の妹ともやらせてくれるなら」と言われ、怒るでもなく妹を提供。息子は思 いを遂げ、妹も両刀遣いの男とめでたく結婚。君らおかしいだろ、と思うが当の3人はどうとも思ってない。このズレ感は何かといえば、今とちがってみな屈託 なく「セックスが好き」ということなんだろう。

 それでいくと、登場する人物の中でいちばん強烈なのが小林一茶。52歳で初めて妻を得て以来、彼は日記にセックスの回数をつけ ている。それも「夜五交」「夜三交」「四交」てな具合で連日連夜。回数も回数だが、こう正直に書き続けるのは彼がド助平だからというより、そもそもそこに ひっかかりなんか感じてないからじゃないか。

 産めよ増やせよ地に満ちよ。生物学的にいえば一茶的生活はまこと正しくはある。

 こういう剛(ごう)の者は結構いたようで、本書で多数引用している『甲子夜話(かつしゃわ)』の著者、松浦静山も子供33人、最後の子は74歳のとき。江戸の人々は、生き物としてのエネルギーが今とは比べものにならないほど強かったのだ。

 それが今じゃ流れは草食系男子である。一茶が現代に来たら、ずいぶんとたまげるだろうな。

表紙画像

江戸の性の不祥事 (学研新書)

著者:永井 義男

出版社:学習研究社   価格:¥ 798

0 件のコメント: