2009年3月10日火曜日

asahi shohyo 書評

小林・益川理論の証明 陰の主役Bファクトリーの腕力 立花隆さん

[掲載]2009年3月1日

  • [文]佐久間文子 [写真]高波淳

写真立花隆さん(68)

■「世界の謎」を追い続ける

  「益川敏英さんや今の素粒子物理の中心にいる人たち、益川さんと同年の僕も、湯川さんの影響をすごく受けてるんです」と立花隆(たちばな・たかし)さんは 言う。湯川秀樹氏がノーベル賞を受けたのは戦後間もない1949年、立花さんは小学3年生だった。こんなすごい人がいたのかという驚きが素粒子への関心の 出発点にある。

 本書では昨年ノーベル物理学賞を受けた小林誠・益川敏英両氏の「CP対称性の破れ」理論の正しさの証明に、数百人の研究者が高 エネルギー加速器研究機構の巨大加速器で挑んだ様子をリポートした。最小物質の素粒子でできたB中間子を大量に作り、崩壊過程を観察して検証する試みが 「Bファクトリー」計画だ。

 世界はなぜ消滅せずにあるのか。存在とは何か。物理学の問題意識は哲学に重なる。違いは科学者は世界の構成要素のすべてを自分の目で見ようとすることで、立花さんも「見ることがすべての基本」という。

 理論や用語は難解だが、長さ3キロの加速器のトンネルを自転車で回るような著者の好奇心に導かれ、「ゴミの山から針一本の宝を 拾う」実験の全体像が徐々にのみこめてくる。「性能を上げるため、研究者総出、業者の人も巻き込んで加速器に手作業でコイルを巻いたんです」。ローテクで ライバルのアメリカチームを猛追する様子は素人にも面白い。

 「必ず、わからないことにぶつかる。それがサイエンスの最前線を取材する面白さ」。高エネ研のBファクトリー計画を「世界中の 協力による大プロジェクトを日本のイニシアチブで成功させたまれな例。その後も大変な成果を上げている」と高く評価する。取材は証明に成功する直前の 2000年。掲載誌「サイアス」の休刊で中断したが、この間の状況も関係者の座談会などで補足した。

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