2009年3月31日火曜日

asahi shohyo 書評

言葉は身振りから進化した—進化心理学が探る言語の起源 [著]マイケル・コーバリス

[掲載]2009年3月29日

  • [評者]耳塚寛明(お茶の水女子大学教授・教育社会学)

■「手は口ほどに」ものを言うのだ

 おもしろい本である。テーマは人間の言語の起源と進化。言語は、手(ジェスチャー、身振<みぶ>り)からはじまり、口(音声言語)へと進化したという主張である。

 15万年前ホモ・サピエンスが出現した時代、言語は身振りで表現した。祖先は意図的に音声シグナルを生み出すのに適した体の構 造を持ってはいなかった。身振りによる言語は、どうやって「文法」を獲得して複雑な表現が可能になったのか。類人猿は身振りを使い続けるが、人間はなぜ音 声言語へと変わったのだろう。言語学、人類学、心理学、生物学などの知見を渉猟して、そうした謎解きを繰り返しながら、著者は言語の起源と進化の秘密に迫 る。

 本書を読んで私はいとも簡単にジェスチャー論信者になってしまったが、この理論の支持者はまだあまり多くないという。その真偽 はどうあれ、科学的知見を編んでジェスチャー論へと読者を追い込んで見せる知的躍動感が楽しい。原著者の要望だという"とってもくだけた"翻訳の文体も門 外漢にはうれしい。

 会話をするときに人がどれほど手を動かしているか、じっくり観察してみるとよい。言語機能は、手から口へと完全には移行しきっていないことに気づく。「手は口ほどに」ものを言うのである。

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 大久保街亜訳

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