2009年3月31日火曜日

asahi shohyo 書評

ファッションの社会学 [著]フレデリック・モネイロン

[掲載]週刊朝日2009年4月3日号

  • [評者]海野弘

■ファッション論の地図が展開されている

  〈ファッション〉は、現代ではだれでも知っていて、何にでも使うが、あらためて〈ファッション〉とはなにかと考えないようなことばである。したがって、ア カデミックな学問では〈ファッション〉はとりあげられなかった。なにしろ移り変わる軽薄な現象にすぎないので、学問の対象になりにくいのである。

 しかし現代のあらゆる面に〈ファッション〉は関わってくるから、逆に〈ファッション〉によって世界を読み取っていくことができるのではないかと思われるようになり、やっと〈ファッション〉も学問や歴史として研究されるようになった。

〈ファッション〉はさまざまな領域にまたがっている。生活史、美術史、経済学、社会学、心理学など。そのために脱境界的な視野が 必要となる。この本は、近代の個人の成立のうしろに〈ファッション〉の誕生を見据えて、〈ファッション〉が現代にどのように研究されてきたかを、非常に手 際よくまとめてくれる。ロラン・バルトからブルデューにいたるファッションの構造論から、ホランダーなどのジェンダーによってファッションを読み取るフェ ミニズム論まで、現代のファッション論の地図が展開され、とても参考になる。

 著者のフレデリック・モネイロンはフランスで文学とファッションの社会学を教えているという。

 私にとっても〈ファッション〉は興味のあるテーマだったが、なかなかいい本がなかった。流れ去ってしまうものをどうやってとら えたらいいのか。バルトの『モードの体系』は出色の研究であったが、複雑な記号解析の割には結論がつまらない気がした。ファッションには人間的な面白さが 伴っていて、それが抽象化されると、魅力がなくなるのである。

 この本では、記号論だけでなく、社会学、風俗史、美術史などの総合の中で〈ファッション〉がさぐられ、それぞれ、研究がどのような状況にあるかを示し、これからの方向を考えるのにヒントを与えてくれる。

    ◇

 北浦春香訳

No image

モードの体系—その言語表現による記号学的分析

著者:ロラン・バルト

出版社:みすず書房   価格:¥ 7,035

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