2009年3月17日火曜日

asahi shohyo 書評

ファシズムの解剖学 [著]ロバート・パクストン

[掲載]2009年3月15日

  • [評者]南塚信吾(法政大学教授)

■危機感・優越感など「情熱の動員」で説明

 ファシズムについては、1970年代までは全体的議論がなされていたが、その後は個別の国や出来事や人物に即しての研究が主流となった。本書はこの間の個別の研究を吸収したうえで、ふたたびファシズムを全体として論じたものである。

 著者は、ファシズムの思想をまず確定し、その思想の表れとしてその運動や政策を解釈するという従来の方法を批判する。そして、 ファシズムを、(1)運動の始まりの段階(2)政治システムの中に根を下ろす段階(3)権力を掌握する段階(4)権力を行使する段階(5)レジームが過激 化する段階にわけて、各段階への移行を具体的な歴史の中で研究すべきだと言う。

 その観点から、戦前のイタリア、ドイツのみならず、フランス、スペイン、東欧、日本などの例を分析し、さらに最近の東欧や第三世界での事例をも検証していく。

 著者によれば、ファシズムは、民主主義が行き詰まったときに、大衆的熱狂による民族的結集を目的として、国内の浄化と国外への 拡張を目指す政治行動であると一応規定される。このようなファシズムが(1)から(2)や(3)の段階へと高まっていくにあたっては、民主主義が堕落した ときに、左派に対してファシズムが「伝統的保守派」と連合できたことが重要であったと指摘する。

 だが、本書の最大の特徴は、ファシズムの政治行動は「反資本主義」などといったファシズムの思想からではなく、その行動から説 明すべきであるとする点にある。自己の所属する集団の圧倒的な危機感、集団が犠牲者だという意識や半面での自集団の優越感、暴力をも使った社会的純化の希 求、理性より指導者の本能の優越性、暴力という美への信仰、選ばれた人民が他を支配する権利の承認——。これらの「情熱の動員」から説明できると言うの だ。

 著者は、この観点からファシズムとそれに類似する権威主義体制などとの区別をするよう主張するとともに、今日においても、ファシズムの危険性は絶えず存在すると警告する。

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 THE ANATOMY OF FASCISM、瀬戸岡紘訳/Robert O. Paxton 32年生まれ。コロンビア大学名誉教授。

表紙画像

ファシズムの解剖学

著者:ロバート パクストン

出版社:桜井書店   価格:¥ 4,725

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