2009年3月18日水曜日

asahi shohyo 書評

音楽を読む 宇宙も神々も究める対話の面白さ

[掲載]2009年3月15日

  • [評者]依田彰

 音楽、聴いていますか。どんなに不安な時代でも音楽家に勇気づけられることがある。そんな彼らの創意に満ちた生き方がうかがえる、対話から生まれたユニークな音楽本が書店に並ぶ。

 『未聴の宇宙、作曲の冒険』は、国内外で評価の高い現代音楽の作曲家2人が、吟味された世界観や宗教観・死生観にもとづき、作 曲の方法論からオーケストラの魅力、俳句や禅、現代アートまで語り合う。なかでも「本当に日本人は自分たちの文化について評価できているのか」など「創作 の風土」をめぐる丁々発止の議論は面白くてスリリング。

 『日本ジャズの誕生』はライブ中継のようで楽しい。大正中期から太平洋戦争敗戦前後のジャズ(軽音楽)の変遷とその魅力を、 50歳近い年齢差のある著者らが現存する音源(SP盤)を聴きながら紹介。敗戦で「再びジャズを楽しみ踊ることができた」、戦前の編曲や演奏が「欧米の技 術水準に比肩する域に達していた」などの指摘は興味深い。

 "心の旅"もある。『神楽(かぐら)感覚』は、戦後日本のポップス界をリードしてきた音楽家がテクノバンドYMO解散後に宗教 学者らと取り組んできた活動のひとつ、「サルタヒコ」研究を通して「芸能の根源」を探る。沖縄などゆかりの地を巡り、そこでの自由な即興演奏を「神楽」と 位置づける。対話はラテン音楽から日本民謡まで多岐におよび、経済活動とは異次元の、音楽する喜びや意義を再認識する。

 『音楽は自由にする』は、ニューヨークを拠点に幅広く活躍するグラミー賞受賞音楽家が、57年間の半生を率直に語る。とくに 78年のYMO参加や99年のオペラ「LIFE」制作、「9・11」以後の非戦活動や環境問題などへの発言、現在の「ありのままの音楽」に向かう心境は印 象的。音楽で世界を変えたいという願いも伝わる。

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未聴の宇宙、作曲の冒険

著者:湯浅 譲二・西村 朗

出版社:春秋社   価格:¥ 2,625

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日本ジャズの誕生

著者:瀬川 昌久・大谷 能生

出版社:青土社   価格:¥ 2,310

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音楽は自由にする

著者:坂本龍一

出版社:新潮社   価格:¥ 1,785

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