2009年3月20日金曜日

asahi shohyo 書評

隠れた世界文学、お手元に シリーズ刊行

2009年3月19日

写真「エクス・リブリス」刊行(白水社)のトークショーで話す柴田元幸さん(左)と古川日出男さん=東京都内 写真デニス・ジョンソン『ジーザス・サン』写真第2集が刊行中の「世界文学全集」(河出書房新社)

  世界の文学を幅広く紹介する動きが続いている。白水社からは、日本ではあまり知られていないユニークな海外作家を紹介するシリーズ「エクス・リブリス」の 刊行が始まった。一方、作家池澤夏樹さんが作品を選ぶ河出書房新社の「世界文学全集」は、「辺境」「女性」を基本方針に、当初予定になかった第3集全6巻 の刊行を決めた。その中には日本の作品から『苦海浄土』三部作(石牟礼道子)が選ばれた。(都築和人)

■白水社

 白水社のシリーズ「エクス・リブリス」は「蔵書票」「〜の蔵書から」という意味のラテン語で、担当編集者の藤波健さんは「世界 の本棚から面白い作品を選んで紹介したいという気持ちから名付けた」という。第1回配本はデニス・ジョンソンの短編集『ジーザス・サン』(柴田元幸訳)。 ジミ・ヘンドリクスのギターに影響されて文章を書き始め、薬物常用の経験もあるという「くせのある」作家。幻覚でも見ているのではないかと思わせる独特の 文章で、暴力とドラッグに染まった現代アメリカ社会の裏面を切り取っている。昨年、長編『煙の樹』で全米図書賞を受賞したが、日本で単行本が出版されるの は今回が初めて。

 刊行を記念して、柴田さんと作家古川日出男さんとのトークショーがあり、柴田さんは「作家自身の体験も強烈で、その体験を上回る強烈な文章を書いている作品なので、原書が刊行された92年当時は自分が訳せるのか自信が持てなかった。今回は思い切って訳出した」と話した。

 また、古川さんは「言葉に倫理観があって、この言葉でないとこの場面は当てはまらないと決めたら、論理や展開を無視してその言葉を出してくる。間違いかなと思うくらいの恐ろしい終わり方がある」とデニス・ジョンソンを評した。

 シリーズは今後、ポール・トーディ(英)『イエメンで鮭釣りを』(小竹由美子訳)、ロベルト・ボラーニョ(チリ)『通話』(松本健二訳)、ロイド・ジョーンズ(ニュージーランド)『ミスター・ピップ』(大友りお訳)と続く。

■読者に答え日本作品も収録 河出書房新社

 一昨年から刊行の始まった河出書房新社の「世界文学全集」は今年1月から第2集12巻が、ウルフ『灯台へ』(鴻巣友季子訳=新 訳)とリース『サルガッソーの広い海』(小沢瑞穂訳)の配本から始まった。全24巻で完結する予定だったが、同社の担当者木村由美子さんは「全集が幸いに も読者に受け入れられ、第3集の刊行が現実化した」と話す。配本は来年2月から。池澤夏樹さんは、「24巻を選ぶときに、初めからきちんとした方針があっ たわけではないが、個々の作品を選択するうちに、辺境の声と女性の声の尊重という基本方針が見えてきた。第3集の6巻を選ぶにも、この方針に沿い、なおか つ24巻に不足したものを補おうと考えた」という。

 第3集で補うべきものとして、池澤さんはルポルタージュ文学をあげ、「日本語の作品を入れることも必要だろうし、短編の巻を作ればぐんと領域も広がる。『苦海浄土』は辺境の声であり、しかもルポルタージュ性もある。日本から選ぶならまずはこれと思った」としている。

 木村さんによると、日本の作品を収録することは当初は予定になかったが、若い読者や海外の作家から「なぜ、日本の作品が入っていないのか」と聞かれる機会が多かったという。

 第3集の巻立ては、ボフミル・フラバル(チェコ)『私は英国王に給仕した』(阿部賢一訳=初訳)、リシャルト・カプシチンスキ (ポーランド)『黒檀(こくたん)』(工藤幸雄ほか訳=初訳)、ジョゼフ・コンラッド(英)『ロード・ジム』(柴田元幸訳=新訳)、『苦海浄土』のほか、 短編集が2巻。

表紙画像

ジーザス・サン (エクス・リブリス)

著者:デニス ジョンソン

出版社:白水社   価格:¥ 1,890

表紙画像

精霊たちの家(世界文学全集2-07) (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集2)

著者:イサベル・アジェンデ

出版社:河出書房新社   価格:¥ 2,940

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