2009年3月24日火曜日

asahi shohyo 書評

都市美運動ーシヴィックアートの都市計画史 [著]中島直人

[掲載]2009年3月22日

  • [評者]橋爪紳也(建築史家、大阪府立大学教授)

■美の観点から都市計画を語り直す

 西欧の歴史都市と比べると、日本の都市はお世辞にも美しいとは言い難い。看板など屋外広告物の雑多さ、宙を走る電線の醜さは、誰もが指摘するところだ。

 原点は、都市計画法が制定された1919年にさかのぼる。その第1条で「交通、衛生、保安、経済等」の観点が強調された。そもそも日本の都市計画にあって「美」とは「等」の文字に収まる副次的な課題にすぎなかったのだ。

 しかし同じ時期に欧米のシビックアート思想を紹介、ひいては「都市美」を啓蒙(けいもう)する運動がまきおこった点が注目され ている。昨年末から、酒井憲一『都市美協会運動と橡内吉胤(とちないよしたね)』(東京農業大学出版会)、中島直人ほか『都市計画家石川栄耀 都市探求の 軌跡』(鹿島出版会)など、都市美運動の中核にいた専門家を再評価する研究書があいついで刊行された。美観への関心が、わが国でも、ようやくたかまりつつ あるのだろう。

 都市美協会など諸団体の組織と運動に着目、その草創と頓挫にいたる顛末(てんまつ)を検証することで、「美」の観点から日本の 都市計画を語り直そうとする本書も、問題意識を共有するところだ。今後、日本独自の「都市美」を獲得するためには、草の根の市民運動の広範な広がりと、粘 り強い持続が不可欠であることを本書から学んだ。

表紙画像

都市美運動—シヴィックアートの都市計画史

著者:中島 直人

出版社:東京大学出版会   価格:¥ 8,820

表紙画像

都市美協会運動と橡内吉胤

著者:酒井 憲一

出版社:東京農大出版会   価格:¥ 3,675

表紙画像

都市計画家・石川栄耀—都市探求の軌跡

著者:中島 直人・初田 香成・佐野 浩祥・津々見 崇・西成 典久

出版社:鹿島出版会   価格:¥ 5,040

0 件のコメント: