2009年3月10日火曜日

asahi shohyo 書評

歴史和解と泰緬(たいめん)鉄道 [著]ジャック・チョーカー

[掲載]2009年3月1日

  • [評者]多賀幹子(フリージャーナリスト)

■不愉快な真実を受容し学ぶ勇気

  著者はイギリス人画家。第2次世界大戦でアジア戦線に従軍し日本軍の捕虜となり、収容所で3年半を過ごした。彼が命がけで描いた100点超のカラー画と走 り書きした手記が本書の中心だ。緻密(ちみつ)で優美な記録画は、芸術性と史料的価値で高く評価されている。なお和解研究などの専門家、小菅信子、朴裕 河、根本敬による鼎談(ていだん)も示唆に富む。

 映画「戦場にかける橋」で知られる泰緬鉄道とは、日本軍がタイとビルマ(現ミャンマー)を結ぶために強行敷設した全長415キロの鉄道。熱帯病、栄養不良、過酷な労働、日常的な暴力の中、「枕木ひとつに人ひとり」の命を犠牲にして完成した。

 ただ捕虜たちは監視兵に愉快なあだ名をつけ、赤痢患者の便通回数で賭けを行う。想像を絶する状況下でなお笑いを忘れない強靱(きょうじん)な精神力には圧倒される。まれにいた理知的で親切な日本兵にも触れるなど、フェアな姿勢も健在だ。

 母国に帰還した著者は90歳でなお現役として活躍中。「不愉快な真実を認め受け入れ、そこから学びとる勇気こそ理解し合う上で 不可欠」と歴史知識の習得のみを日英和解条件として提示する。被害者側からの呼びかけに私たちはどう応えるか。読後感の重みは本書の持つ迫力ゆえだ。

    ◇

 根本尚美訳

表紙画像

歴史和解と泰緬鉄道 英国人捕虜が描いた収容所の真実

著者:ジャック・チョーカー・小菅信子・朴 裕河・根本 敬

出版社:朝日新聞出版   価格:¥ 1,575

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