2009年3月10日火曜日

asahi shohyo 書評

社会的排除—参加の欠如・不確かな帰属 [著]岩田正美

[掲載]2009年3月8日

  • [評者]耳塚寛明(お茶の水女子大学教授・教育社会学)

■社会からこぼれ落ちる過程明らかに

  グローバリゼーションと脱工業化という新しい経済社会状況に移行する中で、古い福祉国家の諸制度が対応できない新しい社会問題が登場してきた。「社会的排 除」概念の価値は、セーフティーネットからこぼれ落ちてしまう人々が出現する過程を説明し、問題を解決する方策を「社会的包摂」として明らかにしようとす るところにある。

 フランス生まれのこの言葉は、いまやEU加盟国における社会政策上のキーコンセプトに育ったが、その意味は単純ではない。著者 は、この概念の特徴をたくみに整理した上で、路上ホームレスとネットカフェホームレスを例に、日本社会のリアリティーに切り込む"社会的排除"の力を示し てみせる。日本ではまだ実証的研究は多いとはいえないが、ホームレス以外にも障害者、女性、外国人移住者、いじめや虐待など、多様な社会問題の考察が可能 である。

 ホームレスの事例研究は日本での社会的排除の形成に二つの形があることを教える。ひとつは、いったんは社会のメーンストリーム に組み込まれた人々が、そこから一気に引きはがされるタイプ。失業、離婚と借金、病気など多様な要因が複合的に絡んで、一気に定点を奪う。ふたつめは、 メーンストリームに組み込まれたことはなく、途切れ途切れの不安定就労のように、そもそも社会への参加が「中途半端な接合」に過ぎなかったタイプ。いずれ も、20世紀日本で作られた社会保険や生活保護制度の網から漏れてしまっている。

 いまや海外では、社会的排除概念を使った社会問題の分析が、20世紀型福祉国家の所得保障システムから飛び出て、新しい福祉政 策を生み始めているという。グローバリゼーションの中で日本だけが何もしないで社会の亀裂を回避できる保証はどこにもない。社会はその内部から社会に参加 できない人々を作り出している。

 社会的包摂をめぐる議論の行き着く先は必ずしも鮮明ではない。しかし社会的排除概念の有効性を主張する本書のメッセージは、コンパクトで平明ながら力強い。

    ◇

 いわた・まさみ 日本女子大学教授。『戦後社会福祉の展開と大都市最底辺』など。

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