2009年8月1日土曜日

asahi shohyo 書評

モルグ街の殺人・黄金虫 [著]エドガー・アラン・ポー

[掲載]2009年8月1日朝刊be

■史上初の推理小説

  夏休みは子どもを読書好きにする絶好の機会。知的好奇心をくすぐる、良質なこのミステリーを薦めてみてはいかが。漫画『名探偵コナン』や人気ゲームソフト の『レイトン教授』シリーズが大好きな子どもなら、活字を追えば主人公とともに謎解きの喜びに浸れるミステリー小説の楽しさにきっとはまるはず。

 記者は小学生の頃、横溝正史などにどっぷりはまっていた。ミステリー好きであることを自覚したあと、「ここから始めよう」と、意識して手に取ったのが『モルグ街の殺人』だった。史上初の推理小説とされる。

 著者は米国人だが、舞台はパリの密室。母娘殺人事件を、史上初の探偵役デュパンが持ち前の分析力で解決する。あまりにも意外す ぎる犯人像は、今どきのミステリー界では「馬鹿ミステリー」に分類されてもおかしくない。とはいえ、後の推理小説の王道とされる設定はすべてここから始 まった。

 今年は著者の生誕200年記念。「ポー短編集」シリーズとして、米文学者の巽孝之さんによる新訳が計2冊刊行されている。『モルグ街の殺人・黄金虫』は全6編を収める。(石塚知子)

■もっとはまりたい人へ 書店員のおすすめ

 有隣堂横浜駅西口店(書籍課フロアマネーシャー) 高樋純子さん

〈1〉少年探偵団 [著]江戸川乱歩

〈2〉シャーロック・ホームズの冒険 上 [著]コナン・ドイル

〈3〉時をかける少女 [著]筒井康隆

 紀伊国屋書店新宿南店(児童書担当) 齋藤万里子さん

〈4〉カフェ強盗団 [作]ビードマルク [絵]ビリス

〈5〉ゴッホの宝をすくいだせ! [著]ブレツィナ

 ミステリー愛好家への道を歩み始めたお子さんに、次にすすめたいのは何をおいても〈1〉のシリーズ。64年にポプラ社から発売 された全集は小学校の図書館にも並べられ、そこだけちょっと不謹慎な魅力を放っていた。文庫版でもその全集の表紙イラストを使っている。作家の乙一氏や乱 歩の孫の平井憲太郎氏による巻末エッセーもうれしい。

 忘れてはならないのがミステリーの王道の〈2〉。「完訳」で定評のあるシリーズ中、短編集の〈2〉は入門書として最適。連載時 の挿絵も収録され、中下巻もある。「ポーが推理小説の元祖ならば、ドイルはその由緒正しき継承者。この本については多くを語るまでもありません」と高樋純 子さんも強く薦める。児童書だが、細かい字を読むのがつらくなってきた熟年以降の世代にも、実はお薦め。

 ミステリーからは離れるが〈3〉も夏休みに読ませたい。「せりふや情景描写は古き良き日本の中流家庭のもの。SF小説の体裁を とりつつ、少年少女のあわい初恋物語でもある。何度も映像化されてきたのは原作にそうさせる魅力があるからでしょう」と高樋さん。読み継がれる少年少女小 説の名作だ。

 〈4〉と〈5〉は今どきの子どもに人気の海外作品。〈4〉はスウェーデンのベストセラー。小さな港町にあるラッセとマヤの探偵 事務所に持ち込まれる難事件に同級生の2人が挑む。「解決法もインターネットにデジカメが大活躍と現代風。小学校低学年から楽しめる」と齋藤万里子さん。

 〈5〉は謎解き形式で、画家の生涯や作品について学ぶという「冒険ふしぎ美術館」シリーズの一つ。「魔法の虫めがね」などのおまけが楽しい。

表紙画像

時をかける少女 〈新装版〉 (角川文庫)

著者:筒井 康隆

出版社:角川書店   価格:¥ 460

表紙画像

カフェ強盗団 (ラッセとマヤのたんていじむしょ)

著者:マッティン・ビードマルク

出版社:主婦の友社   価格:¥ 1,155

表紙画像

ゴッホの宝をすくいだせ! (冒険ふしぎ美術館)

著者:トーマス・ブレツィナ

出版社:朝日出版社   価格:¥ 1,155

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