2009年6月2日火曜日

asahi shohyo 書評

地侍の魂—日本史を動かした独立自尊の精神 [著]柏文彦

[掲載]2009年5月31日

  • [評者]松本仁一(ジャーナリスト)

■世界見通す眼力と革命の使命感

 坂本竜馬ら維新の志士のほとんどは下級武士だった。世界を見通す眼力、命をかけて改革をやりとげる使命感を、下級武士群が持っていたのはなぜか。それは彼らが「地侍」の出身だったからだ、と著者はいう。

 ふだんは田畑を耕し、有事には槍(やり)をとって出陣する郷士のことだ。体制内の身分は低いが、治水や開拓など、地域住民の生活向上をつねに考えていた。

 たとえば上州(群馬県)の市川四郎兵衛、五郎兵衛。砥石(といし)製造を指導し、その利益などで広大な新田を開発した。

 讃岐(香川県)の西島八兵衛。90余のため池をつくって干ばつを解消し、暴れ川を付け替えて治水にも努めた。

 屋台のカキ船を考えついた広島の松尾仁左衛門。綿花産業を興した鳥取の米村所平……。

 地侍は生産手段を持っていたため、給与生活者である上級武士より自立心が格段に強かった。住民の信望が厚く、だから「世のため人のため」につくすべきだとする使命感、責任感が強かったのだという。

 そうした存在を多く抱えていたことが、近代化時代の日本の幸運だった。

表紙画像

地侍の魂

著者:柏 文彦

出版社:草思社   価格:¥ 1,890

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