2009年6月24日水曜日

asahi shohyo 書評

琵琶法師—〈異界〉を語る人びと [著]兵藤裕己

[掲載]2009年6月21日

  • [評者]石上英一(東京大学教授・日本史)

■平家物語のテキスト生成を担う

 1185年、壇ノ浦合戦で入水した安徳天皇の死霊に呼び出されて平家物語を弾き語った琵琶法師の伝説は、ラフカディオ・ハーンの「耳なし芳一の話」により広く知られている。

 盲人が琵琶を弾き芸能や祭祀(さいし)に携わる習俗は中国から伝わったらしく、琵琶法師の存在は10世紀から知られる。平家一 門が滅んでまもなく、死霊の祟(たた)りが囁(ささや)かれる中、平家物語の編纂(へんさん)が始まる。琵琶法師が平氏鎮魂と源氏政権誕生の演唱で平家物 語のテキスト生成を担ったのは、異界と俗界を結ぶ司祭者としての役割によると著者はいう。

 14世紀初頭には読み本の延慶本が生まれた。語り本は、1371年に検校覚一が口筆をもって正本を書写させ、相伝されるに至っ た。室町時代には琵琶法師の組織、当道座が確立し、足利将軍と関(かか)わりを深め、平家物語は武家政権の起源神話として機能したことが指摘される。

 琵琶法師はまた、死と再生、流浪と復活を主題とする語り物も広めた。最後の琵琶法師の一人が弾き語る「俊徳丸」の映像を収めた付録のDVDでは、評者も、なかなか見られないその世界に触れることができた。

表紙画像

琵琶法師—"異界"を語る人びと (岩波新書)

著者:兵藤 裕己

出版社:岩波書店   価格:¥ 1,029

表紙画像

耳なし芳一

著者:小泉 八雲・船木 裕

出版社:小学館   価格:¥ 1,470

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