2009年6月10日水曜日

asahi shohyo 書評

庄内パラディーゾ—アル・ケッチァーノと美味なる男たち [著]一志治夫

[掲載]2009年6月7日

  • [評者]平松洋子(エッセイスト)

■ひと皿の奇跡が生む地方の再生

 共感するちから。著者のノンフィクション作品を読むたび、この言葉を思い起こす。書き手としての懐のふかさから生まれた共感と理解を手だてに、取材対象へ誠実に踏みこんでゆく。

 山形県鶴岡市のレストラン「アル・ケッチァーノ」オーナーシェフ、奥田政行の料理に驚嘆した著者は、ひと皿のなかに広がる庄内 地方の豊かな自然に出合う。「地場イタリアン」とも呼ぶべき味わいの背景には、在来野菜の篤農家、有機農法に取り組む若い生産者、現代農業に挑戦を突きつ ける個性的な生産者……土地に根を張りながら日々格闘する群像があった。

 料理や食、農業にとどまらない。これは自分の仕事に誇りを持ち、暮らす土地に価値やよろこびを発見してゆく庄内の男たちの物語 だ。「パラディーゾ」は天国のこと。はたして庄内は天国になりうるか。地方はあらたな息を吹き返すのか。もがきながら道を探る男たちの試みは、がけっぷち の日本に提示されたひとつの回答でもある。

 一冊のなかに「パラディーゾ」へみちびく希望の光がある。読む者に、地方再生への連帯をも促すノンフィクションである。

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