2009年6月4日木曜日

asahi shohyo 書評

〈著者に聞きました〉歌劇場のマリア・カラス—ライヴ録音に聴くカラス・アートの真髄 蒲田耕二さん

[掲載]2009年5月27日朝刊

■ライヴ録音で再発見するマリア・カラスの真価

 マリア・カラスは20世紀のオペラ界でもっとも有名な歌手でしょう。特にオペラ好きではない人も名前ぐらいは知っている。しかし、なぜ知っているのかというと、オナシスとの不倫や過激なダイエットなど、音楽とは無関係のゴシップを通じてであることが多いように思います。

 そこで、さまざまな偏見と先入観を洗い落とし、音楽を通じて歌手マリア・カラスの実像に触れてほしいと思ったのが、本書執筆の 動機です。CDを添付したのも、彼女の歌のすごさを実際に聴いて認識してほしかったからにほかなりません。本文もCDも対象をライヴ録音に限っています が、それはやり直しのきかないステージでこそカラスは真の実力を発揮したからです。事実、CD収録の7曲を、これほど見事に歌った例はほかにないでしょ う。

 添付CD(約75分)には、現在望みうる最高のリマスタリング技術が適用されています。音源自体は50年以上昔のもので必ずし も良質ではないのですが、そこからできるだけ豊(ひ)かな声を抽き出し、カラスのライヴ録音のCDではかつてない高音質を実現しました。うち2曲は大手 レーベルからも発売されていますが、聴き比べれば差は歴然です。

 マリア・カラスとは、持てる知的エネルギーをすべて音楽に注ぎ込んだ人でした。そのため私生活は幸せではなかったし、歌手生命 も比較的に短かった。そうした代償を払って、オペラ歌唱史に革命的な足跡を遺した。20世紀前半のオペラは老化し、古くさい型にはまった歌唱が横行してい たのですが、カラスはそれをリセットしたのです。わが身を削るような渾身(こんしん)の歌唱で、150年前のみずみずしい生命力をオペラに蘇(よみがえ) らせました。

 そういう彼女の真価を、本書とCDを通じて再発見していただければ幸いです。(談)

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