2009年6月10日水曜日

asahi shohyo 書評

偽りの書 [著]ブラッド・メルツァー

[掲載]2009年6月7日

  • [評者]江上剛(作家)

■聖書とコミックが交錯する活劇

 私が本を読むのは、たいてい電車の中だ。通勤電車で読むあなたと同じ。そこでぜひ本書を鞄(かばん)に入れて出勤して欲しい。とにかく面白い。息もつかせぬとはこのことだ。通勤時間が短く感じられ、山手線をもう一周したくなること請け合いだ。

 物語は、二つの殺人事件の謎が軸になっている。一つは、旧約聖書の創世記第四章に書かれてある兄カインによる弟アベル殺害事件 の謎。その凶器は何なのか? これは旧約聖書の最大の謎であり、それを解き明かす「偽りの書」があるという。もう一つは、アメリカンヒーロー「スーパーマ ン」の原作者ジェリー・シーゲルの父親殺害事件の謎。一見、無関係な二つの謎が奇妙に絡み合う。アベル殺害の謎を秘めたスーパーマンの原画を巡ってナチ ス、秘密教団、謎の一族など怪しげな者たちが暗躍する。インディ・ジョーンズとダ・ヴィンチ・コードを一緒に楽しめる展開なのだ。

 主人公のカルは、入国税関管理局(ICE)の元捜査官。幼い頃、父ロイドが母を死なせるところを見て以来、傷ついた心を抱き続 けている。ある夜、銃創を負ったロイドが、19年ぶりに現れる。ロイドはトレーラーの運転手。何か犯罪にかかわる物を運んでいるようだ。カルは、ロイドを 救おうとしてトレーラーの中からスーパーマンの古いコミックを発見する。それは「偽りの書」の在りかを示す鍵なのか? カルは「偽りの書」を探すためなら 殺人も厭(いと)わないエリスの罠(わな)に陥り、殺人犯の疑いをかけられる。ICE特別捜査官ナオミの厳しい追及をかわしつつ自らの潔白を証明しようと 「偽りの書」の謎を解く旅に出るのだが………。

 物語には巧妙に真実が織り込まれている。実際、旧約聖書にはアベル殺害の凶器の記載はない。謎を解くためにカルが訪ねるスー パーマンの家もクリーブランドに実在する。読者は何が真実で何が偽りか分からなくなり、ページを繰る手が止まらなくなる。そして、すべての謎が明らかに なった時、私たちの魂を癒やす物語だったと気付き、深い感動に包まれるだろう。

    ◇

 青木創訳/Brad Meltzer 70年生まれ。米国の作家。『運命の書』など。

表紙画像

偽りの書 上

著者:ブラッド・メルツァー

出版社:角川グループパブリッシング   価格:¥ 1,785

表紙画像

偽りの書 下

著者:ブラッド・メルツァー

出版社:角川グループパブリッシング   価格:¥ 1,785

表紙画像

運命の書〈上〉

著者:ブラッド メルツァー

出版社:角川書店   価格:¥ 1,890

表紙画像

運命の書〈下〉

著者:ブラッド メルツァー

出版社:角川書店   価格:¥ 1,890

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