光る本棚・コンシェルジュ…図書館を変える民間委託
利用者が専用の端末を使うと、予約した本がある棚を光で知らせるシステム=31日午後、東京都府中市の市立中央図書館、福留庸友撮影
全国の公立図書館の6館に1館が業務を民間企業を中心に外部に委託し、その割合は今後も増える見通しだ。財政難に苦しむ自治体が運営費削減を狙っているためだが、およそ本とは縁の無さそうな異業種からも参入が相次ぎ、異色のサービスも次々に登場している。
東京都府中市に07年12月に開館した市立中央図書館では、約85万冊の全蔵書にICタグが付けられ、一部の本棚には読み取りアンテナがある。利用者が 専用端末を使って瞬時に本の場所を探せ、予約した本の棚のライトが光る仕掛けも。車に乗ったまま館外からも返却ができる。
前身の旧館に比べて年間貸出冊数は1.7倍に増加。11カ月間で、来館者が100万人を突破した。
IT(情報技術)を駆使しようというアイデアは、設計から加わった図書館流通センターがもたらした。
センターの調査では4月現在で、全国約3千館のうち委託は約17%に当たる516館まで増えた。野村総合研究所の推計では、図書館サービス市場は、12年度には08年度比29%増の1030億円に拡大する見込みだ。
公共施設の管理運営を民間にも開放した指定管理者制度が原動力。あらゆる分野で市場縮小が広がるなか、図書館市場は拡大を続ける。公立図書館は 98年から10年間で602館が新設。市街地活性化の目玉として再開発ビルの主要施設として開館したケースも多い。日本図書館協会によると、08年の利用 者は、団塊世代の利用増や消費不況もあり前年比4.5%増えた。
美術館や音楽ホールの運営実績を持つサントリーグループは、都心の千代田区立千代田図書館に、飲食店や書店も案内できるホテルのようなコンシェルジュを常駐させる。神田神保町の古書街と連携した展示など企画力が強みだ。「機会があれば受託を増やしたい」という。
車両サービスが本業の大新東は02年から本格参入。06年4月から運営に携わる兵庫県明石市立図書館では、本業を生かし、月1回程度、高齢者や障害者の自宅へ本の集配サービスを続けている。
このほか、ビル管理、人材派遣会社なども参入する。
出版関係企業も注目する。一部業務の受託まで含めれば今や約190カ所を運営する最大手は、図書館流通センターだ。図書館に新刊情報を提供し、書籍を納入する老舗(しにせ)だが、「自治体の予算は減るばかり。事業拡大が必要だった」と96年に初受託した。
センターを傘下に持つ大日本印刷は、ICタグの製造も大手で、丸善やジュンク堂書店などもグループ化した。森野鉄治常務は「読者が本に接するのは店頭と図書館。図書館が活性化し専門書がきちっと売れれば、結果的に出版や印刷メーカーなどの利益につながる」と話す。
ただし、課題もある。図書館法は対価を取ることを禁止。サービスを良くして利用者が増えるほど、費用がかさむ。
高知県南国市は07年から指定管理者制度への移行を決めていたが、委託先が「提示された予算では責任が持てない」と辞退した。島根県安来市も、「専門業者も都心に集中している」として、08年からは直営に戻した。
協会の常世田良理事は「コスト節減と言っても、人件費圧縮ぐらいしか工夫の余地がない。サービス低下につながりかねない」。実際、「コスト削減だけを求めてくるケースもある」(大新東)という。(湯地正裕)
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