2009年6月2日火曜日

asahi shohyo 書評

思考停止社会 郷原信郎(のぶお)さん

[掲載]2009年4月19日

  • [文]竹端直樹 [写真]鈴木好之

写真郷原信郎さん(54)

■お上にゲタ預けてひれ伏すな

 「ヤメ検王子」。失礼ながら、もう少し若ければそう呼ばれていたのではないだろうか。端正にしてソフトな外見。だが、ひとたび口を開けばラジカル(根本的)な言葉を連発する。企業のコンプライアンスや検察を巡る問題で、今や引っ張りだこの人物だ。

 コンプライアンスは一般に「法令遵守(じゅんしゅ)」と訳される。企業が経済活動の中で不祥事を起こさないよう、法令や社会的 規範などを守ることを指す。「だが、法令を守ってさえいればいいという考え方が、逆に世の中に弊害をもたらしている」。検事職を辞してから、一貫して警鐘 を鳴らし続けてきた。

 自身2冊目となる新書。「言っていることの基本は1冊目と変わらないが、問題意識は私の中で深まっている」という。ベースにあるのは「日本人の『遵守』の対象が法令以外にも広がってきている」という危機感だ。

 食の偽装、建築の強度偽装、ライブドア事件、厚生年金記録の「改ざん」問題。取り上げられる事例に共通するのは、コトが表面化 した途端に企業、組織がメディアや世の中からバッシングされ、事実や背景、原因は無視される構図だ。「法令遵守」「偽装」「隠蔽(いんぺい)」「改ざん」 「捏造(ねつぞう)」。バッシングに使われる言葉の数々を、時代劇になぞらえ「印籠(いんろう)」と呼ぶ。

 「日本人は『印籠』を出されるとひれ伏してしまう。メディアも世の中もバッシングに加担。思考停止です」

 善玉・悪玉の理論が幅をきかせるだけでは、結局問題解決には至らない。「遵守」をつかさどるお上にゲタを預けてしまえばいい、 という国民にも問題があると語る。「民主党代表の秘書が逮捕された事件も同じ構図です。検察が刀を振るったから、アイツは悪いとたたく。でも資金の流れは 公開されている。法に照らして違法かどうか、自分の頭で考えることが必要です」

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