「植民地責任」論 脱植民地化の比較史 [編]永原陽子
[掲載]2009年5月31日
- [評者]南塚信吾(法政大学教授・国際関係史)
■「人道に対する罪」さかのぼり援用
南アフリカのダーバンで、画期的な会議が01年8〜9月に開催されている。それは「人種主義、人種差別、排外主義、および関連する不寛容に反対する世界会議」と称するもので、実に、奴隷制と奴隷貿易ならびに植民地主義を「人道に対する罪」と断定したのだった。
この会議に先立つ同年5月、フランスは、「アメリカ、カリブ、インド洋、ヨーロッパで、アフリカ住民、アメリカ先住民、マダガ スカル住民、インド住民に対して15世紀来遂行された、一方で大西洋黒人奴隷貿易およびインド洋奴隷貿易と、他方で奴隷制を、人道に対する罪と認める」と 法律において宣言していた。
「人道に対する罪」という概念はナチス裁判に際してつくられた法概念であるが、それが第2次世界大戦以後の時代だけでなく、大きく遡(さかのぼ)って15世紀以来の奴隷制・奴隷貿易や植民地主義を批判する概念として援用されたのである。
実は、90年代以来、奴隷貿易、奴隷制、植民地主義、先住民問題、人種主義などの責任を問い、謝罪や補償を求める動きは世界各 地で進んでいたのだ。ドイツでの戦争犯罪、アメリカでの「黒人への補償」などをめぐって。その間にジェノサイドの研究の広がりもあった。それらが、人道に 対する罪の概念の適用によって、植民国の「責任」を問う方向へと発展した。
本書は、これを、これまでの「戦争責任」とも「植民地支配責任」とも異なる「植民地責任」という概念として規定する。戦争という異常事態のもとでの虐殺や虐待、植民地支配に伴う制度的暴力とは異なって、植民地征服と支配の全体に伴う責任を指すのである。
2001年以後、世界各地で植民地責任を問う被害者の運動が展開している。ナミビア、ジンバブエ、スペイン、ハイチ、ケニア、台湾などで。やがて日本の植民地責任がもっと深刻に問われるに違いない。
編者の狙いが比較的よく貫徹した小気味よい論集であり、近代以後の世界史全体の見直しを提起する重要な本である。
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ながはら・ようこ 55年生まれ。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授。
- 「植民地責任」論—脱植民地化の比較史
出版社:青木書店 価格:¥ 5,040
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