2009年6月2日火曜日

asahi shohyo 書評

丘のてっぺんの庭 花暦 鶴田静さん

[掲載]2009年5月24日

  • [文・写真]浜田奈美

写真鶴田静さん

■「この1本」を次世代のために

  著者宅を訪ね、「時間よ止まれ」と念じた都会生活者は多いはずだ。房総半島の澄んだ潮風をたっぷりと浴び、素晴らしい眺望の丘に造られたその庭の名は「ソ ローヒル・ガーデン」。ネムノキが涼しげに葉を揺らし、ノイバラやウツギといった草木たちが我が世の春を謳歌(おうか)する。そんな光景に歓待されたら、 「都会なんて」と思ってしまうのが人情というものだろう。

 20年近く住み慣れた町に土地を購入。多くの人の支えを得て、写真家で夫のエドワード・レビンソンさんと力を合わせて家を建 て、庭に草木や野菜を植えてきた。庭造りの手本としたのはイギリスの詩人で工芸家のウィリアム・モリスの思想。現存する木と調和させ、地域の独自性を保 つ。家との統一性を大事にし、生産的なものにすること——。それらを実直に実践した庭に、『森の生活』で田園生活のありようを後世に伝えた作家の名を付け た。

 家の誕生秘話は『二人で建てた家』(文春文庫PLUS)にしたためたが、モリスの精神を体現し、暮らしに息吹をふき込んでくれ る草花たちのことを「個人的なもので終わらせたくない」と感じていた。折しも世間はガーデニングブーム。「自分のためだけに美しい花で飾るのではなく、次 の世代のためを思って『この1本』を植えてくれたら」。そんな思いも込め、庭の四季折々を夫の写真とともに月刊誌に連載。本著にそのすべてを収録した。

 造園の名手だった絵本作家の庭の種から育てたタチアオイ。母が育てたアジサイ。29年前、夫から初めてプレゼントされたモミノキ。草木それぞれの「物語」に、植物を愛した先人たちの逸話などをまぶし、自然と人との本来的なかかわりを教えてくれる。

 今年で物書き生活30年。自然の影響か、その文章も変化を重ねてきた。「それでも人は、草木の成長にかないませんね。毎日、彼らから学ぶことばかりです」

表紙画像

丘のてっぺんの庭 花暦

著者:鶴田 静・エドワード レビンソン

出版社:淡交社   価格:¥ 1,995

表紙画像

二人で建てた家 (文春文庫PLUS)

著者:鶴田 静

出版社:文藝春秋   価格:¥ 700

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