2009年6月18日木曜日

asahi culture literature japan Osamu Dazai 100th

ユーモアや語りに脚光 太宰治、19日で生誕100年

2009年6月17日

写真太宰治

  作家太宰治(1909〜48)が19日で生誕100年を迎える。これに合わせて関連本の出版、イベントや展示会が目白押しだ。太宰と言えば破滅型作家の印 象が根強いが、わずか12年間の文筆生活のうちに発表した作品は多彩をきわめ、このところユーモアや語りの魅力にスポットが当たっている。

 〈生(うま)れて、すみません〉。太宰の言葉で最も有名な一つだが、これを額面通りに受け取るのは一面的。出典は短編「二十世 紀旗手」の副題で、極端な自負と敗残意識とを対置した片面だからだ。だが、代表作『人間失格』の暗いイメージと相まって、副題だけが独り歩きし、太宰像を 形成してきた。

 しかし、最近刊行された関連本からはだいぶ異なる太宰像が立ち上がってくる。

 「爆笑問題」の太田光氏は『人間失格ではない太宰治』(新潮社)で、「愛と美について」などサービス精神にあふれた11作を編む。既成の物語の翻案ものに真骨頂があるとして、最も好きな作品に中期の「右大臣実朝」を挙げる。

 女性作家ら12人が寄稿している『女が読む太宰治』(ちくまプリマー新書)でも、好みの作品は分かれる。西加奈子氏は短編「皮 膚と心」を挙げ、〈小さな吐息のような甘い切なさ〉が特徴だと記す。平安寿子氏は「女生徒」の語りを〈文章に頭の中をレイプされている〉ようだと表する。

 作家・長部日出雄氏は、文芸別冊「総特集・太宰治」で最大の特徴は「ユーモア」、2番目が「語り口調の音楽性」だと述べ、『お伽草紙(とぎぞうし)』が〈わが国の文学史上もっとも痛快なパロディーの最高傑作〉(新潮文庫『富士には月見草』あとがき)であると断じる。

 これらは中期の作品で、39年に石原美知子と結婚、甲府市に新居を構えた時期に書かれている。相馬正一岐阜女子大名誉教授は 「一頃、『晩年』など初期の前衛的な作品が読まれ、その後、晩年に書かれた『斜陽』『人間失格』が売れた。だが、太宰は前期・後期が生活が荒れ、中期が最 も安定していて、『走れメロス』『お伽草紙』『富嶽百景』など文章の魅力が光る作品が多い」と評する。

 山梨県立文学館では28日まで「太宰治展」を、東京・三鷹の太宰治文学サロンでも展示会を開催中。青森県五所川原市では19日の桜桃忌から3日間、生誕百年記念イベントを開催。(小山内伸)

表紙画像

女が読む太宰治 (ちくまプリマー新書)

著者:佐藤江梨子・山崎ナオコーラ・西加奈子・雨宮処凛・津村記久子・辛酸なめ子・平安寿子・井上荒野・太田治子・高田理恵子・香山リカ・中沢けい

出版社:筑摩書房   価格:¥ 714

表紙画像

富士には月見草—太宰治100の名言・名場面 (新潮文庫)

著者:太宰 治・長部 日出雄

出版社:新潮社   価格:¥ 420

表紙画像

晩年 (新潮文庫)

著者:太宰 治

出版社:新潮社   価格:¥ 540

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