2009年6月2日火曜日

asahi shohyo 書評

よい世襲、悪い世襲 [著]荒和雄

[掲載]週刊朝日2009年6月5日号

  • [評者]永江朗

■世襲は零細企業だけ許される

  民主党の代表選も終わり、いよいよ関心は次の総選挙へと向かっていく。争点のひとつは世襲問題になるだろう。しかし、自民党内の議論を見ると笑ってしま う。世論を考えても、また、党改革からしても、世襲制限は必要だろうに、それをいうのは少数派だ。なにしろ次期総選挙立候補予定者のうち、自民党では33 パーセントが世襲(民主党は8パーセント)。閣僚や派閥領袖など有力議員となると、もっと世襲の割合は高い。

 世襲批判が高まっているのは、安倍・福田・麻生と、無能な世襲首相が続いたからだ(たぶん当人には無能の自覚がないだろうけ ど)。ブッシュ・ジュニアもひどかった。金正日だってそう。だが、世襲だからといって即ち無能とは限らない。荒和雄の『よい世襲、悪い世襲』は、実業界の 豊富な実例をもとに、この問題を考える。

 政治家の世襲が問題なのは、地盤・看板・カバンの3つを引き継ぐからだ。地盤は後援会など支持団体。看板は知名度。カバンは政 治資金。看板はしかたないにしても、後援会や資金管理団体を引き継ぐのはおかしい。支持や寄付はその政治家に対するもので、息子だから孫だからといって相 続させるものではない。もっともこれは政治家本人だけでなく、「血筋」などという下らないもので投票してしまう選挙民も悪い。

 じゃあ「よい世襲」とはなにか。著者は老舗企業などを例に、世襲のメリットを考える。長期的視野に立った経営ができるとか、社 内の派閥抗争がないとか、幅広い人脈を引き継げるとか。幼いころから経営者としての自覚を植え付けられるのもメリットかもしれない。しかし、デメリットも 多い。後継者不足は深刻だし、後継者が無能だった場合は悲惨だ。後継者が無能かつワンマンで不正や事故を起こしたり、経営に失敗した企業はたくさんある。 世襲が許容されるのは零細企業レベルであり、ある程度の規模になると、よほど幸運と人材に恵まれないかぎり難しそうだ。就活中の学生諸君、企業選びは慎重 に。

表紙画像

よい世襲、悪い世襲

著者:荒 和雄

出版社:朝日新聞出版   価格:¥ 735

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