2009年6月18日木曜日

asahi shohyo 書評

正座と日本人 [著]丁宗鐵

[掲載]2009年6月14日

  • [評者]江上剛(作家)

■認知症やメタボを防ぐ効果も

  トロイ遺跡を発見したシュリーマンは幕末の日本旅行記に、家族が正座して食事をする姿を興味深く書き残している。ベストセラー『「縮み」志向の日本人』の 著者である李御寧は、正座を、精神を集中させ安静を得る「どの民族も模倣しがたい姿勢」と位置づけている。私たちに当たり前の正座は、外国人から見ると極 めて特異な日本独自の文化のようだ。

 本書は、医学博士であり、茶道にも精通した著者が、正座の歴史、文化、医学的意味などを丹念に調べたものだ。かつては立てひざ やあぐらが正式な座り方であり、あの千利休でさえ正座をしていなかった。正座が一般化するのは明治以降で、明治政府が近代日本人を形成しようと、自己を律 する武士道の象徴としての正座を広めた教育の成果だ。その結果、正座の習慣がない朝鮮や中国を蔑視(べっし)するようになったのは不幸なことだという著者 の視点は新しい。

 正座は脳血流を改善し、認知症やメタボリック症候群を防ぐ効果があると、健康面も丁寧に解説している。正座という日常習慣は日本文化の象徴だったのだと、目からウロコが落ちる。

表紙画像

正座と日本人 (The New Fifties)

著者:丁 宗鐵

出版社:講談社   価格:¥ 1,680

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