エデンの東 [著]ジョン・スタインベック
[掲載]週刊朝日2008年04月04日増大号
[評者]温水ゆかり
■"映画はほんの一部"のエンタメ小説
新訳。未読の方は驚いて下さい。映画はほんの一部。原作がこれほど面白い大河小説だったとは。J・ディーンに罪はないが、長いこと詐欺にあってたようなもんである。
アイルランドからやってきたハミルトン家の初代がサリーナス盆地の最も痩せた土地に住みつく。トラスク家の二代目が新妻を連れてこの地に降り立 ち、父の遺産で最も肥えた土地を買う。ここが物語の時間軸の合流点。以後この地を舞台に、子沢山のハミルトン一家、出産したばかりの新妻が双子を棄てて出 奔するトラスク家と、両家の興亡を並行的に描く。米文学の永遠のテーマである父と息子の対立、トラスク家の二世代に響かせた聖書カインとアベルの物語(兄 弟間の嫉妬と殺し)。トラスク家の三代目を描くのが映画で、ハミルトン家の三代目が作中に顔を出す作者自身。作者はこれを書くために自分は生まれたという 意味のことを言っていて、僭越(せんえつ)ながら言っていいと思う。
双子の母が凄まじい。怪物、悪女ものの原型。我が国の最近では『白夜行』とか『幻夜』。スタインベックさん、たいしたエンタメ作家でもあった。ラスト近くには9・11で再読された最晩年の米国論『アメリカとアメリカ人』の胚胎も。
◇
土屋政雄訳
- エデンの東 新訳版 (1) (ハヤカワepi文庫 ス 1-1) (ハヤカワepi文庫 ス 1-1)
- 著者:ジョン・スタインベック
- 出版社:早川書房
- 価格:¥ 798
-
この商品を購入する|ヘルプ
- 白夜行 (集英社文庫)
- 著者:東野 圭吾
- 出版社:集英社
- 価格:¥ 1,050
-
この商品を購入する|ヘルプ
- アメリカとアメリカ人—文明論的エッセイ (平凡社ライブラリー)
- 著者:ジョン スタインベック
- 出版社:平凡社
- 価格:¥ 945
-
この商品を購入する|ヘルプ
ここから広告です
0 件のコメント:
コメントを投稿