言葉を恃む [著]竹西寛子
[掲載]2008年04月13日
[評者]由里幸子(前編集委員)
■書きながら探る自分、そして宇宙
言葉への信頼感を「恃(たの)む」と、古風にきっぱりと表明したタイトルにひかれた。著者初めての講演録。小説でも評論でも文章では控えめな人が古典詩歌や野上弥生子、川端康成などを軸にしながら、思いを凝縮させて語っている。
冒頭の「私の広島と文学」は故郷での講演。16歳で被爆したあと、内にたまった「何かこなれの悪いもの」が、本居宣長の著述に出会って風穴ができた、とふりかえる。
「書きながら自分を探っていくということは、書きながらこの広い宇宙を探っていくことなんですね。分からないことがいっぱいなんです」
別の講演では、古今集の四季の歌は、自然の運行や宇宙の呼びかけに対し当時の歌人たちが歌で答えたのではないかと、魅力ある考察を語る。また、藤 原俊成の亡妻を思う歌と与謝野晶子の鉄幹への挽歌(ばんか)に、「同じ一つの詩の言葉」をみつけ、時を超えた詩の流れを感じた話も興味深い。
書き言葉でも、話し言葉でも「言葉遣いを粗末にするということは、自分の生き方を粗末にすること」という信念が、凜(りん)として貫かれている。
薄っぺらな言葉がはんらんしている現代にあって、広島の焼け跡のなかで「芭蕉の不易流行の説」を卒論にした人の、揺るぎない姿勢が頼もしい。
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