2008年4月29日火曜日

asahi shohyo 書評

骨が語る古代の家族 [著]田中良之

[掲載]2008年04月27日
[評者]石上英一(東京大学教授・日本史)

■お墓の骨から浮かぶ家族と社会

 九州大学の解剖学研究室で形質人類学を学んだ考古学者が、「人骨を使った考古学」により親族組織分析を分かりやすく記した書。

 歯の歯茎から現れている部分を歯冠という。個体間に親子・キョウダイ(親を共通にする男女)の血縁関係があると、何本かの歯種の組み合わせについて、歯冠近遠心径(歯列方向の歯の幅)の相関関係の数値が高いという。

 著者は、縄文・弥生・古墳時代の墓出土の歯を計測し、個体間の血縁関係の復元を行う。ある墓から男女一対の人骨が出土すると、素人のみならず考古 学者でもすぐ夫婦合葬かと思う。だが、歯冠計測値の相関係数が高ければ、その男女はキョウダイか親子なのだ。そして、人骨の性別、若年・成年・熟年・老年 の区別、追葬・改葬、さらに墓の築造過程や遺構遺物により、墓・墓群の埋葬者の血縁・世代関係を復元できる。

 縄文時代には、双系(父系・母系並立の親族関係)の部族社会が形成され、弥生時代には首長墓が出現し首長制社会に移行するが、古墳時代になっても 人々の親族関係は双系のままであった。ようやく6世紀に、横穴墓などに血縁関係にない男女の合葬、すなわち父系の夫婦墓が現れる。

 日本古代社会は、双系制の特質を残しつつ父系親族関係社会へ転換したと提言する。

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