2008年4月17日木曜日

asahi shohyo 書評

「美」を生きる 千住博さん

[掲載]2008年04月13日
[文]山口栄二 [写真]安藤由華

■岩絵の具に魅せられて

 世界的に高い評価を得ている日本画家の千住博(せんじゅ・ひろし)さんが、これまでの半生を初めて本格的に語った本だ。

千住博さん(50)

 その冒頭に、3人のきょうだいの中で「一番おっちょこちょい」だったと書いている。

 「妹(バイオリニストの千住真理子氏)は石橋をたたいて渡るタイプ。弟(作曲家の千住明氏)は石橋をたたいて渡らずに見ているタイプ。それに対して私は、石橋を見ながら泳いで渡ってしまうタイプで、決断より行動が先という人間です」

 高校生の時、岩絵の具で描かれた日本画を初めて見た。「岩絵の具の魅力にノックアウトされて」、日本画家を目指した。芸術とあまり縁のない父からは反対されたが、それを説得。エスカレーター式に有名大学に入れる道をなげうって、東京芸大を受験するための予備校に入った。

 「おっちょこちょいが人生の大きな柱に気づかせてくれることもあるのかもしれません」

 十数年前にハワイ島の奥地で遭遇した滝に触発されて以来、「滝」をモチーフとした作品を多く描いている。

 「生命にとって本質的な物質である水と大切な力である重力が掛け合わされて生まれる滝は、すべての生命にとって最も根源的な風景。だから、人種や国籍を超えて人類がひきつけられるのだと思います」

 本書では、「日本画家の巨匠たちが長寿なのは岩絵の具のおかげだ」という「日本画家長寿論」を唱えている。

 「太古の昔から人間は自然のものを身につけることで宇宙のパワーを得ていた。天然の岩を砕いて作る岩絵の具はそうした生命力を秘めている。それに毎日触れている日本画家は、このパワーのおかげで長生きなのではないでしょうか」

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