2008年4月9日水曜日

asahi shohyo 書評

ヘミングウェイの酒 [著]オキ・シロー

[掲載]2008年04月06日
[評者]唐沢俊一(作家)

■カクテル片手にほろ酔いで

 ANAで旅をすると、投宿してまず、ホテルのバーに飛び込んで一杯、という気分になることが多い。なぜだろうと思って考えてみたら、機内誌「翼の 王国」に連載されていた「フライト・カクテル・ストーリー」という、酒にまつわる短編小説を読むからだと気がついた。オトナの恋の甘くほろにがい味を、カ クテルに重ね合わせるしゃれた小品群である。

 その作者による本書『ヘミングウェイの酒』は、著者が一途に憧憬(しょうけい)を捧(ささ)げるヘミングウェイの作品と、ゆかりの酒を語りつつ、男の生き方をそのグラス越しに考察してみたという作りのエッセーだ。

 フローズン・ダイキリ、モヒート、ブラディ・メアリ、ビターズを垂らしたジン・トニック、椰子(やし)の果汁をソーダ代わりにするトム・コリン ズ……個性ある酒の数々が、ヘミングウェイの人生の、その時々の状況にぴたりとはまる脇役、いや陰の主役となる。本当にそうなのか、著者の絶妙の語り口で そう思わされてしまうのか、酒場で洒脱(しゃだつ)な老紳士の話を聞くような気持ちで読んでみたい。決して重くないが、しかしさらりと人生の機微が語られ る。時に同じ話が繰り返されたりするのもまた味である。厚み、印刷の色、おなじみ唐仁原教久の挿絵、ほろ酔いで読むことを想定した本の作りがまた憎い。

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