2008年4月26日土曜日

asahi art culture manga comic Osaka Juvenile Book Library Museum

大阪の児童文学館に廃止案 国内最多の70万点所蔵

2008年04月26日

 誰もがきっと親しんだ児童書やマンガ。貴重な古書から新刊まで国内最多の約70万点を集め、こども文化を総合的に研究している施設があるのをご存じだろうか。大阪府立国際児童文学館(吹田市)。いま、府の行財政改革の荒波にもまれ、がけっぷちに立っている。

写真「日本一ノ画噺」は専用の本箱も保管

 同館は1984年5月に開館。明治以降の国内外の児童書、雑誌、マンガ、紙芝居など約70万点を所蔵 する。国会図書館にもない巌谷小波(いわや・さざなみ)の「日本一ノ画噺(えばなし)」(明治末〜大正初)35冊の全揃(そろ)いや、日本初の子ども向け 漫画誌とされる「少年パック」創刊号(1907年)など、貴重な資料もある。

 図書館は本だけを保存することが多いが、ここでは箱、カバー、帯を含めて刊行時の状態で永久保存し、文化財のように後世へ伝える。それで出版社も新刊を寄贈してくれる、と向川幹雄館長は話す。

 『日本児童文学大事典』の刊行、子ども向け図書検索システムの構築や、「おはなし会」の開催など子どもと本をつなぐ実践にも力を入れる。東京・上 野に00年開館した、国立国会図書館国際子ども図書館も約30万点の資料があるが、地域に根ざした活動は「国際児童文学館ならでは」と研究者も感心する。

 マンガミュージアムの先駆けでもある。06年開館の京都国際マンガミュージアムは「単行本は作者名順、雑誌は誌名ごとに並べるなど、分類法や運営 を参考にさせてもらった」(表智之研究員)。「少年ジャンプ」「少女フレンド」などの少年・少女マンガ誌は、創刊号からほぼすべてそろう。付録ごと保存す るのは「全国でここだけでは」と、マンガ評論家の村上知彦さんは話す。

 ところが、この児童文学館を「廃止」し府立中央図書館(東大阪市)に「機能を移設」する大阪府改革プロジェクトチーム案が発表された。資料と専門家がそろった研究機関でもある同館を役割が違う図書館内に移せば、機能を果たせなくなると心配されている。

 「こんなことなら、滋賀県にすれば良かった」

 79年、蔵書約12万点を寄贈し、同館の基礎をつくった児童文学者の鳥越信さん(78)は嘆く。学生時代から食事を抜き、電車賃を浮かして集めた ものだから「研究機関や資料館をつくってくれるところに」と全国の自治体や大学、企業に呼びかけた。最後まで競ったのが滋賀県と大阪府。滋賀県は武村正義 知事(当時)が自宅まで訪ねてくるなど熱心だったが、大阪府幹部に「滋賀県にとって1億円は大金だが大阪府にははした金。寄らば大樹の陰ですよ」と言わ れ、迷った末に決めた経緯がある。

 同館の存続を求めて「大阪国際児童文学館を育てる会」が始めた署名活動には3万8395人分が集まり、文化人有志の要望書には谷川俊太郎、松谷み よ子、江國香織の各氏ら56人が真っ先に参加。日本児童文学者協会(那須正幹会長)のほか、フィンランド、スウェーデン、イギリス、フランス、中国、韓 国、スイスなど9カ国の児童文学研究所や団体からも続々と要望書が届いた。日本マンガ学会(呉智英会長)も「日本を代表する文化として注目されるマンガの 創作・研究の支援はもとより、国内最高水準のマンガ・アーカイブである」との要望書を橋下徹大阪府知事に提出している。(大村治郎、小川雪)

●資料、死蔵の恐れ

 〈佐藤宗子(もとこ)・千葉大教授(児童文学)の話〉 国際児童文学館が貸し出し中心の図書館に統合されれば、収集資料も死蔵される恐れが大き い。専門家のいる国際児童文学館がその資料を活用した展示会を巡回させたり、復刻本を作って販売したり、独自事業を進めることが大切ではないか。




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