2008年4月9日水曜日

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世界最大の翼竜 本物は70キロ、展示模型は300キロ

2008年04月09日14時11分

 名古屋市科学館で開かれている「世界最大の翼竜展」(朝日新聞社など主催)では、おなじみの恐竜とはちょっと違う「翼竜」の生態が紹介されている。全長 10メートルの翼を持つ翼竜はどうやって飛び、何を食べていたのだろう。化石はどんなところで発見され、どのように復元されたのだろう。展示されている化 石や最新の学説に基づく復元模型などを通して翼竜展の魅力を探った。

写真

組み立てられるケツァルコアトルスの模型=名古屋市中区の市科学館、佐藤慈子撮影

 展示の目玉は、世界最大の翼竜「ケツァルコアトルス」だ。会場の入り口近くのホールの天井を覆うように、復元した模型と骨格標本が並べてつり下げられている。

 今回の展示のための復元模型と骨格標本の組み立て作業は、3月10日から5日間かけて進められた。復元模型のパーツは、頭部や羽根、脚など7個。専門の作業員4人がつきっきりで、天井の鉄骨から胴体をワイヤで引っ張り、空中で接合していった。

 復元模型は強化プラスチック製。形を安定させるため、中には鉄骨が通っている。翼を広げると10メートルにもなるが、最新の学説では体重はわずか70キロほど。一方、模型の重さは300キロにもなる。

 ケツァルコアトルスの翼は、極端に長く伸びた手の薬指に皮膜がついて形作られている。皮膜はわずか数ミリだったという。さらに骨は中空で、蜂の巣のよう なハニカム構造を持つ。大空を飛ぶために徹底した減量がなされていたようだ。監修に携わった北九州市立自然史・歴史博物館学芸員の籔本美孝さん(55)は 「本物の生物にはかなわない」と感嘆する。

 今回の模型の図面は、英・レスター大の翼竜研究者デイビッド・アンウィン博士から送られてきた。

 籔本さんによると、化石は一部しか見つからないことが多い。類縁の種の化石などから姿を推測。さらに空を飛ぶことから航空力学の観点などを取り入れ、矛盾が生じない姿を作り上げていくという。

 これまで、後ろ脚の甲部分を下にした状態で飛んでいたと考えられてきたが、図面では後ろ脚の甲部分を外に向けて飛んでいたという。「後ろ脚は、飛行機の垂直尾翼の役割を果たしていたのではないか」と籔本さん。

 では、化石ではよく分からない皮膚の色はどうやって決めたのだろうか。

 アンウィン博士から送られてきた絵柄のデザインは2種類。籔本さんらは、とさかが赤く顔が青い派手なデザインの方を選んだ。「ケツァルコアトルスが生きていた白亜紀は暑かった。今でも熱帯の生物はカラフルですからね」

    ■

 国内で発見された約10個の翼竜の化石のうち4個が、岐阜県高山市にある中生代ジュラ紀から白亜紀の地層「手取層群」から出ている。展示中の翼竜「ズンガリプテルス」科の歯の化石を見つけたのは同市荘川支所に勤務する下島志津夫さん(54)の親子だ。

 中生代の日本列島はアジア大陸と陸続きで、高山市周辺は川の河口部分だったという。貝やカメなどの化石が出てくる。「恐竜が出てくるかもしれない」と、96年9月から97年4月にかけて山に入っては石を持ち帰っていた。

 ある日、持ち帰った石の中に、ほかとは色合いの違う石があった。普通は黒や茶色だが、緑色がかっていたという。当時、中学生だった次男がハンマーで割ったところ、断面に見たこともない二等辺三角形の化石が見えた。

 高さ9ミリ、幅5ミリ、厚さ1ミリほど。それがズンガリプテルスの歯だった。翼を広げると3〜4メートルの大きさだったと考えられている翼竜だ。

 化石探しは、石をハンマーで割り、顕微鏡をのぞきながらドリルで数ミリずつ削っていく地道な作業。当時は毎日、石と向き合ってきたが、最近は週に1日くらい。

 「あわてたり欲を出したりしたら、見えなくなる。じっくりじっくりやる」。まだまだ意欲は失っていない。

    ■

 翼竜は何を食べていたのだろうか。歯やあご、化石が見つかった場所の当時の様子などから推定されている。

 鋭い歯のついたズンガリプテルスは、二枚貝をくちばしの先でつまみ、バリバリと食べていたという。上下それぞれ細長い歯を間隔を空けて計十数本持つハーパクトグナトゥスは、魚が逃げないよう、歯で突き刺して丸のみしていたと考えられている。

 また、密集した剛毛の歯を持つプテロダウストロのような翼竜もいる。クジラのように、毛でプランクトンをこしとった上、甲殻類などを食べていたという。

 ケツァルコアトルスは何を食べていたのか。死んだ恐竜の肉を食べていたという説や、飛びながら魚を食べていたという説があるが、実はまだ詳しく分かっていない。

 最近では、沼や湖の近くを歩きながら、魚やトカゲ、カエルなどの小動物を食べていたという説もある。コウノトリと同じような生活だったのではないかという考え方だ。

 国立科学博物館研究主幹の真鍋真さん(48)=古生物学=によると、恐竜では腹に未消化の食べ物が残った化石があるが、翼竜では見つかっていないという。「いい化石が出てくればもっと詳しく分かってくるはずだ」と今後の研究に期待している。(木村俊介)




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