2008年4月29日火曜日

asahi shohyo 書評

地球・環境・人間2/地球環境「危機」報告 [著]石弘之

[掲載]2008年04月27日
[評者]久保文明(東京大学教授・アメリカ政治)

■迫る危機的状況、どう解決するか

 地球環境の危機的状況に慄然(りつぜん)とせざるを得ない3冊である。

 『地球・環境・人間2』は『地球・環境・人間』の続編であり、絶滅しつつある野鳥、アマゾンの破壊、カエルの大量絶滅、水質汚染といった自然環境の破壊の問題が報告されている。

 とくに『地球・環境・人間』では「エイズウイルス感染者四千万人を超える」「武器取引の規制運動、世界に広がる」「世界のスラム、一〇億人を突 破」など、地球上の様々な場所で起きつつある人間的悲劇についても、たたみかけるように危機的状況を伝える。これが、この二つの本を一層おもしろくしてい る。

 『地球環境「危機」報告』も、取り上げるトピックの幅広さという点では同様であるが、より豊富なデータを駆使し、掘り下げて記述している。ただ、 3冊に共通して、読み進むほど、ところどころで、「ではどうすればよいのか」と考えざるをえなくなる。ある問題を解決しようとすると他の問題が生起してし まう場合も少なくないのだ。

 たとえば、砂糖キビなどを原料とするバイオ燃料は最近まで、二酸化炭素ガス排出量削減に効果があるとして、万能薬のように推奨されてきた。ところ が現在、まさにその需要増のために、食料品が値上がりしており、暴動すら発生している。アマゾンや東南アジアの熱帯林が畑に転換されつつある。他方で、貧 しい砂糖キビ栽培農民にとっては、これは朗報としかいいようがない。

 「貧しい国から看護婦を奪うのか」という章では、「途上国が公費を使って育てた医師や看護師を、欧米の先進諸国が横取りしている」といった国際移 住機関の報告書が引用されている。しかし、移住によって本人はより多くの収入を手にし、家族も社会も潤う。場合によると現地政府も後押ししている。

 多くの問題は、驚き怒る段階を通り越している。今後はさらに巨視的、総合的、包括的に解決策を考えていく必要がある。むろんこの著者の「報告」が、その第一歩であることは間違いない。

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 いし・ひろゆき 40年生まれ。


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