2008年7月16日水曜日

asahi shohyo 書評

どうする国有林 [著]笠原義人、香田徹也、塩谷弘康

[掲載]2008年7月13日

  • [評者]広井良典(千葉大学教授・公共政策)

■森林の公共性とは何かを問い直す

  かつて司馬遼太郎は「土地の公有制」を主張し、また「戦後社会は倫理問題をふくめて土地問題によって崩壊するだろう」と発言していた。土地所有というテー マはある意味で日本社会の核心にある問題だが、それは国土の約7割を占める森林、そしてその森林の3割を占める国有林についてもあてはまる。

 本書はそうした国有林が、2006年の行革推進法を受け独立行政法人化の方向で検討が進められている状況を踏まえ、単純な民営 化推進論に疑義を呈しつつ、これからの国有林のあり方について包括的な議論を展開するものである。環境問題への関心が高まる中、「森」についての書物は数 多く出されているが、森林の「所有」のあり方や「政策」を正面から議論するものは少なく、その点からも貴重な内容だ。

 本書の前半では国有林をめぐる戦後の政策展開が概観される。戦後復興期から高度成長期にかけて、広葉樹林を針葉樹林に転換する 拡大造林の方針のもと、成長量をはるかに超える伐採を続けた結果、森林資源が枯渇して赤字経営に転落した第1期。「改善計画」が開始されたものの実質は事 業縮小にほかならず、累積債務が膨れ上がり事実上の破産宣告に至った第2期。「抜本的改革」が唱えられつつなお理念が定まらぬまま現在に至る第3期。こう した政策展開を検証した上で、後半では今後の国有林のあり方に関する四つの基本理念((1)持続性原則(2)地域原則(3)公共性原則(4)公開・参加原 則)が提示されるとともに、「国有林基本法」の制定など具体的な提言が行われる。

 本書が一貫して問うているのは「森林の公共性とは何か」というテーマであり、また「国有林は誰のものか」という根本的な問いで ある。そうした追求を通じて、木材自給率が2割にとどまり、「世界有数の森林国であるにもかかわらず、世界有数の木材輸入国」である日本のあり方が問いな おされる。それは、社会保障などを含めて私たち日本人がいま直面している「公共性」をめぐる諸課題の一環をなすものといえるだろう。

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 かさはら・よしと 宇都宮大名誉教授。東京林業研究会国有林部会会員が執筆。

表紙画像

どうする国有林

著者:笠原 義人

出版社:リベルタ   価格:¥ 1,680

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