2008年7月12日土曜日

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太陽系の秘密、星くずで探れ 九大で研究

2008年7月11日9時12分

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写真ビルト2彗星のちりを研究している中村智樹・九大准教授=福岡市東区の九州大写真ビルト2彗星=NASA提供図

 地球のはるかかなたの宇宙で採取された「星くず」が、九州大学にある。太陽の周りを回る彗星(すいせい)から噴き出したミクロン単位の「ちり」を、米航 空宇宙局(NASA)の探査機が捕まえたものだ。太陽系の誕生当時の姿をとどめた「化石」として世界各国の研究者が競って分析中で、太陽系の歴史を書き換 える成果が生まれつつある。

 福岡市東区の九大箱崎キャンパスにある中村智樹准教授(地球外物質科学)の研究室。手のひらに収まるサイズの箱の中に、一緒に並べた髪の毛よりも はるかに小さな黒い粒があった。大きさは髪の毛の太さの10分の1程度しかない5〜20マイクロメートル(1マイクロメートルは1千分の1ミリ)。

 これが、太陽の周りを回る「ビルト2彗星」から噴き出したちりだ。

 ちりを捕らえたのは、NASAが打ち上げた探査機「スターダスト」。04年に地球—太陽間の2.6倍も離れた約4億キロのかなたで、彗星に最接 近。直径5キロほどの彗星の中心核から噴き出したちりを採取した後、06年に地球に帰ってきた。回収されたちりは約5マイクロメートル以上のもので約1万 個。日米欧の研究者に分けられ、一斉に分析が始まった。

 中村さんは宇宙から地球に落ちてきた隕石(いんせき)や細かいちりの研究者で、分析に参加した一人。九大には50個ほどがあり、東京大や大阪大、神戸大なども分析に加わった。

 この極めて小さなちりがなぜ重要なのか。「太陽—地球間の距離の30倍も離れた太陽系外縁部の物質だからです」と中村さんは話す。

 ビルト2彗星は、現在は木星の重力によって軌道が変わり太陽に接近するようになっているが、もともとは太陽系の果ての「エッジワース・カイパーベ ルト」と呼ばれる領域の天体。惑星から降格された準惑星・冥王星など、氷でできた小天体が無数に集まっている場所だ。そこにある物質は、約46億年前に太 陽系ができた当時の状態をそのまま残しており、そんな物質でできている彗星を詳しく調べることで、太陽系がどのような歴史を経てきたのかがわかると期待さ れている。

 各国の研究チームの分析の結果、ちりの中に、かつて1400度以上の高温にさらされてできた物質が確認された。中村さんらは、兵庫県の大型放射光 施設「SPring8(スプリング8)」などにちりを持ち込み、高温下でできた物質の性質の解明などに取り組んだ。国立天文台の渡部潤一准教授は「ちりは かつて太陽の近くにあり、何らかの原因で遠い太陽系外縁部まではじき飛ばされたということになる。太陽系ができる過程で大規模な物質の循環があった、とい うイメージができつつある」と話す。

 現在は、太陽系ができる前に作られた可能性がある物質が発見されるなど、各国が競って研究を進めている。

 「現在考えられている太陽系の歴史が、これから数年のうちに変わってくるかもしれない」と中村さん。「これからは独自の研究を進め、太陽系外縁部で天体がどのように誕生したかを解明したい」と意気込んでいる。(福島慎吾)



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