新種ホシザクラ群生の里山守れ 開発計画が浮上 多摩(1/3ページ)
世界でわずか100株しか自生していないというホシザクラ。多摩丘陵の一角にある群生地は、ノウサギや国蝶(こくちょう)オオムラサキなど多様な生き物 がすむ典型的な里山だ。この地に今年5月、宅地開発計画が持ち上がった。地元の東京都町田市や市民団体は、里山を残そうと、地権者に計画の縮小、撤回を求 め、動き始めた。(石田勲)
■ホタル飛び交う緑の孤島
羽田空港からヘリコプターで15分。町田市の京王電鉄多摩境駅の上空についた。東へ視線を約500メートル移すと、一角だけ木々が生い茂ってい る。面積わずか3.6ヘクタールの片所谷戸(かたそやと)だ。住宅や墓地、量販店が迫り、そこだけがV字形の緑の孤島になっていた。
地上から現場を訪ねた。沢をのぞくと、絶滅のおそれのあるホトケドジョウ2匹が、さっと落ち葉のかげに隠れた。夜には、ゲンジボタルが飛び交う。オオタカなど希少種も複数確認されている。
この地が注目を集めたのは、03年に新種の桜、ホシザクラが50株も群生していることが分かったからだ。ホシザクラは92年に初めて、多摩丘陵で 見つかった。5枚のがくの形が、星のように見えることから、この名がついた。見つけた富山県中央植物園の大原隆明主任によると、野生個体は多摩丘陵の 4〜5カ所で計100株程度しかないという。環境省も07年、ごく近い将来に絶滅しかねないと、危険度の最も高い「1A」に指定した。大原さんは「片所谷 戸は最大の群生地の可能性が高い」と話す。
「開発には谷筋の埋め立てが必要だったため、奇跡的に開発を免れてきたようだ。雑木林、草地、沢がバランスよくあり、多様な生き物の宝庫になって おり、ぜひ残して欲しい」。地元で自然観察会や下草刈りをしている「小山のホタルと自然を守る会」の柿澤澄夫さん(72)は話す。
地元の町田市も、保全の道を探ってきた。03年以降、谷戸全体の42%、桜の群生地のほぼ100%を所有する京王電鉄など地権者に、谷戸全体を買い取る意向を伝えたが、価格が折り合わなかった。
そんな中で、今年5月、事態が大きく動いた。地権者が説明会を開き、宅地開発したいと地元に伝えた。計画地は、市街化区域に含まれ、開発の制約もない。
この動きに、「守る会」は慌てた。京王電鉄に質問状を送り、今月17日には町田市長に会って保全策を急ぐよう求めた。市民の署名を集めて、市議会に保全の請願をする方向で準備を始めている。
町田市の石阪丈一市長は「ホシザクラが群生する谷戸はほかになく、どうにか残せないか、知恵を絞っている。計画地の買い取りも含め、どんな条件なら、地権者も納得する保全策がとれるのか、あらためて検討する」と話す。
一方、京王電鉄広報部は「計画の主体は、複数の地権者でつくる土地区画整理組合設立準備会であり、コメントする立場にありません。計画はまだ正式決定しておらず、詳細を説明できる段階にありません」という。
■13年間で1割消える
雑木林や沢など多様な環境からなる里山には、希少種が多く集まる。里地里山は、日本の国土の4割を占める。ただ、大都市部では、開発で切り開かれたり、 手入れされず竹林になったりしてしまっている。東京都の00年の調査で、多摩地域に404カ所の谷戸が確認されたが、それまでの13年間で1割にあたる 48カ所が消失していた。谷戸は丘陵地がV字に削られた谷状の地形だ。
里山を守る取り組みは、活発化している。国は、自然共生社会のモデルとして、里山保全の意義を世界に発信する「SATOYAMA(里山)イニシアチブ」を展開中だ。
東京大学大学院の鷲谷いづみ教授(保全生態学)は「行政、企業も従来型の開発だけでなく、社会的貢献、責務として里山を守り、後世に残していく時代になっている」と話している。
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