2008年7月16日水曜日

asahi shohyo 書評

日本全国 産業博物館めぐり—地域の感性を伝える場所 [編著]武田竜弥

[掲載]週刊朝日2008年7月18日号

  • [評者]海野弘

■産業博物館は輝かしくも苦しい歴史を語っている

 テレビで、産業博物館めぐりがこのところ新しい旅としてなかなかの人気だと伝えていた。美術館や博物館は、古い文化財の展示が中心であったが、近代がやっと歴史としてふりかえられるようになり、近代産業の遺品や遺跡も保存され、産業博物館がつくられるようになった。

 初期の産業博物館は、企業の資料倉庫のようなものが多かったが、その後、面白く見せようという工夫がされるようになった。企業も公共性を求められ、企業イメージを上げなければならなくなったからである。

 この本は、全国の産業博物館94を選んで、内容を紹介したものである。これでも全部ではないから、いかに多くの館がつくられて いるかがわかる。私は、美術館、文学館はよくまわるが、そのついでに産業博物館にも寄る。たとえば、先日、瀬戸内海の小豆島に壺井栄文学館を見に行き、そ の近くにあったマルキン醤油の記念館に入った。すると、お土産に、醤油の小びんをもらった。おいしい醤油であった。お土産というのも産業博物館の人気の秘 密の1つであるらしい。

 産業博物館が増えたことは、日本の近代産業が100年前後の歴史を持ったことを示している。また小豆島の話をすると、今年は ちょうどオリーブがギリシャからもたらされて、小豆島に植えられてから100年ということであった。日本のオリーブ産業も小豆島で100年の歴史を持った のである。

 そのように近代100年を考えてみると、この本に出てくる産業博物館のそれぞれは、いきいきとして近代史を語ってくれる。その 歴史は輝かしくもあり、また苦しいものでもある。そして、近代100年は1つの歴史を終えて、日本の産業は新しい時代に入った。しかし、環境問題、資源問 題など、その未来は必ずしもバラ色とはいえない。博物館で語られている日本近代のよき時代は、これからどうなっていくのか。私たちはそこに展示されている 歴史に学んでいかなければならない。

表紙画像

日本全国 産業博物館めぐり (PHP新書 523)

著者:武田 竜弥

出版社:PHP研究所   価格:¥ 903

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