2008年7月29日火曜日

asahi shohyo 書評

ゲバルト時代 [著]中野正夫

[掲載]2008年7月27日

  • [評者]唐沢俊一(作家)

■においまで伝わる現場からの証言

  とっぴな連想だが、本書を読んで押井守のアニメ「うる星やつら2ビューティフル・ドリーマー」を思い出した。あのアニメは「永遠に続く学園祭前夜」が舞台 になっているが、本書は、67年から73年の日本における「永遠に続く革命前夜」という幻想の中でゲバルト活動に身を投じた、一青年の青春記なのである。

 サブタイトルで著者は自分のことを「ヘタレ過激派活動家」と自嘲(じちょう)している。しかしヘタレとは、言葉を換えて言えば そのころの多くの学生運動家が、空虚なイデオロギーに陶酔して目的を見失い、果ては赤軍派のようにテロや内ゲバによる殺人に走った中で客観的な目を失わ ず、学生運動自体がはらむ矛盾点をきちんと認識し、距離をとっていた、ということでもある。

 正直な話、これまでこの時代の革命闘争の記録をいくら読んでも、どこか得心がいかなかった。当時の思想状況や政治状況をいかに 解説されても、評者が子供心にあの頃感じていたある種の躁(そう)的な雰囲気が伝わってこないというじれったさがあった。あの騒乱を「革命ごっこ」、若者 たちの「パフォーマンス」とシビアな評価でとらえた本書の刊行で、やっとひざを打ったというのが本音である。

 著者の目は単にシニカルに学生運動を見ているだけではない。平和を唱えるだけで現実に対抗できていない市民主義者やインテリ文 化人を批判し、大学の不正経理を追及した日大生たちの闘争がいかに連帯感、一体感、正義感を共有できた素晴らしい闘いであったかについても力を込めて語っ ている。4万人集会のデモ行進で、道が本当に波打つように揺れたというくだりには現場にいた者のみが描けるリアリティーがある。

 一方でいかにも若者らしい女性問題での喜劇的かつ露悪的なドタバタや酒の上での失敗談もたっぷりと語られる。こういう生きたエ ピソードのない、理念だけの証言では、決してあの時代のにおいは伝わってこない。本書からは実に濃厚に、それがただよって来ている。この本を補助線にし て、今の日本、今の若者に思いを馳(は)せてみて欲しい。

    ◇

 なかの・まさお 48年生まれ。高卒後の6年間、ゲバルト活動に明け暮れた。

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