2008年7月16日水曜日

asahi shohyo 書評

モダン都市の系譜 [著]水内俊雄・加藤政洋・大城直樹

[掲載]2008年7月13日

  • [評者]橋爪紳也(建築史家、大阪府立大学教授)

■背後に潜む都市問題も浮き彫りに

 本書では京都、大阪、神戸が分析の対象になる。焦点は歴史的な都心の周辺部、「都市計画の暗黒時代」にかたちづくられた市街地だ。

 明治末から大正時代、この地域に零細な工場が集積した。あわせて労働者の住宅地や歓楽街が出現する。その後、その外側で計画的 な土地利用が進展した結果、無秩序な市街地が同心円状に取り残された。その様子は、JR大阪環状線に沿って、工場地帯、密集した長屋地区、沖縄や朝鮮半島 から来阪した人たちの定住地、日雇い労働者の居住地などが連鎖する大阪がわかりやすい。

 地理学者である著者たちはこれらの地域を「文化的にも経済・社会的にも都市問題の孵化(ふか)器」とみなし、野宿者の分布など 今日まで積み残された諸課題にも言及する。さらに、都市の影の部分をも表現した一連の地図を用意して、華やかさの背後に潜む都市問題を浮かびあがらせる。

 地理学の醍醐味(だいごみ)は「読図」にある。部屋の中で地図を眺めつつ、想像の中で街を遊歩し、時に鳥の目で上空から国土を 眺める疑似体験は、実に知的な楽しみである。そのことを意識しつつも著者たちは、あえて都市で生きることの厳しさを読者に示し、深刻な都市問題について真 剣に考える機会を用意する。読みごたえのある地理書である。

表紙画像

モダン都市の系譜—地図から読み解く社会と空間

著者:水内 俊雄・加藤 政洋・大城 直樹

出版社:ナカニシヤ出版   価格:¥ 2,940

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