2008年5月8日木曜日

asahi shohyo 書評

脳は奇跡を起こす [著]ノーマン・ドイジ

[掲載]2008年05月04日
[評者]常田景子(翻訳家)

■自ら修復していく機能を活用

 脳研究は、まさしく日進月歩で、新発見が次々となされている。現代科学の初期にあった「脳は精密な機械のようなものだ」という考え方が、今日では 塗り替えられつつある。機械は変化や成長をしないが、脳には可塑性があり自ら変わっていくものだということが分かってきたからだ。

 本書では、精神科医である著者が脳の可塑性について研究しているパイオニアたちを取り上げつつ、彼らの専門分野から実例を披露している。

 例えば、前庭器官の機能を失った人の舌に電気刺激を与えて、平衡感覚を取り戻させた事例。先天的な視覚障害者がものを「見える」ようになる装置。 また、脳卒中で半身麻痺(まひ)になった人が復職し、旅やハイキングを楽しむまでになったとか、学習障害児が訓練で弱点を克服していく姿など、「奇跡的」 事例が挙げられ、それらはすべて、自ら機能を修復していく脳の可塑性をうまく使ったからだということが解説されている。

 精神分析を確立したフロイトが、もともと神経科学者で、彼の理論もニューロンの研究や脳の可塑性についての考察が土台になっているというのも興味深い。

 脳が自らを再編していくものだと思うと、高齢化に向けて希望が湧(わ)く一方、脳についての謎はますます深まるようでもある。

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