2008年5月27日火曜日

asahi shohyo 書評

フタバスズキリュウ発掘物語 [著]長谷川善和

[掲載]2008年05月25日
[評者]瀬名秀明(作家、東北大学機械系特任教授)

■発掘から命名まで38年のロマンが

 1968年、いわき市の高校生が川岸で複数の化石を発見し、国立科学博物館へ連絡した。後にフタバスズキリュウと名づけられたこの化石はブームを起こし、藤子・F・不二雄のマンガ『のび太の恐竜』のモチーフともなった。いま日本でこの名を知らない子どもはいないだろう。

 科博でこの発掘の先頭に立ってきた著者は、最初に現場に足を踏み入れたときからひとつ、またひとつと重要な化石を見つけ出し、そして骨格を復元し てゆくまでのドラマを実に丹念に綴(つづ)っている。その筆致は静かな情熱と気配りの利いた学者のもので、読者は積み重ねられた長い年月を著者と共に追体 験する。

 本書は『のび太の恐竜』に一度も言及しない。骨盤のかたちからフタバスズキリュウは陸に上がれなかった可能性や、卵生ではなく胎生であった可能性 を示唆する。それどころか読者の夢を壊さないよう配慮しながら、しかしフタバスズキリュウが恐竜のグループではないこともきちんと押さえる。そして後年つ いに日本で恐竜化石が発見されるまでを描くのだ。その誠実さにロマンを感じる。

 映画『のび太の恐竜』のリメーク版が公開された2006年、ようやくフタバスズキリュウの論文が発表され、学名が与えられる。読み終えて38年分の熱い吐息をついた。


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