2008年5月27日火曜日

asahi shohyo 書評

文化と抵抗 [著]エドワード・W・サイード、デーヴィッド・バーサミアン

[掲載]週刊朝日2008年05月30日号
[評者]温水ゆかり

■ラジオが生んだサイード入門書

 サイードの本邦初訳が文庫で登場。1999年から03年2月(死の7カ月前)まで、晩年の肉声を収録。同文庫の『ペンと剣』(1987〜94年の 声)の続編にあたり、本書でもオスロ合意(93年)の欺瞞をつく姿勢、1国家2国民案など、学者の枠を超えて行動してきたサイードの真摯な訴えは変わって いない。

 パレスチナ問題はイスラエル&米国タッグの報道が多く、いいナビゲーターがいないと現実感を持ちにくい。本書では細部の状況はさらに悪化している ことが臨場感たっぷりに伝えられるが、いわゆる政治的な見取り図には変化がない。もどかしいが、あとがきで大橋氏が最高にブラックなことを書いている。 "ジャーナルとして落胆する向きもあるだろうが、それは払拭されたい、なぜなら今でも状況は変わっていないから"と。

 サイード入門書として最高の『ペンと剣』『文化と抵抗』は、独立系ラジオから生まれた。20世紀を代表する思想家を定点観測するがごとく話を引き 出したインタビュアーはそのプロデューサー。サイードの端正で温かい語り口に、ラジオというメディアの可能性を感じる。ブースの中で対面する温度が思想の 温度を上げている。

    ◇

大橋洋一ほか訳


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