2008年10月7日火曜日

asahi shohyo 書評

古本蟲がゆく—神保町からチャリング・クロス街まで [著]池谷伊佐夫

[掲載]2008年10月5日

  • [評者]橋爪紳也(建築史家、大阪府立大学教授)

■津々浦々で古書を渉猟する喜び

  かつては3日とあげずに地元の古書街に足を運び、2カ月に一度は東京の神田神保町に遠征するのが常であった。収穫がなくとも、古本屋に身を置くことで癒や されたものだ。しかし最近は事情が違う。インターネットで日本中の古本屋のサイトから必要な資料を検索、最安値で手に入れることができる。すっかり出無精 になってしまった。

 しかし本書を手にしたとたん、体内の「蟲(むし)」がワサワサとうごめきだした。古本好きのイラストレーターである著者が、津 々浦々で古書渉猟を堪能する。文章が洒脱(しゃだつ)である。「本の世界は海のように奥が深く、また海の家より間口が広い」とは、けだし名言だ。加えて飛 翔(ひしょう)する「蟲」の目で、店内や市を俯瞰(ふかん)的に描くスケッチが素晴らしい。棚にある本の傾向がわかる子細な解説があり、「古本蟲」にはた まらない。屋号のままに広い岡山・万歩書店、日本最北端の稚内・はまなす書房など、仕事をさぼってでも出向きたい衝動にかられた。

 評者も懇意にさせていただいている建築・都市を専門とする「港や書店」など、力の入った目録を発行している無店舗型の書店も登場する。

 「古本蟲」の生態系を守るべく、仕入れに販売にと古書業界のプロたちがいかに奮闘努力しているかが分かる。日々の苦労に敬意を表したい。

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